午前0時過ぎ
 
 

九条が制服に着替え、雪女、ダンとともに学校に到着したのは昼間だった。雪女が雪を空から降らし、番傘をさして熱から身を守る。昼間ということで恐ろしいほどの眠気と、厚い雲が太陽を覆っていても隠しきれない太陽の光が九条を刺激する。ヒリヒリとする痛みに堪える。足元にはロルフが寄越した一匹の狼が凛とした姿で校舎を見上げていた。
ちょうど午後の授業中で校舎は静まっていた。



「それじゃあ、作戦通りに」



ダンはメモ帳から数枚の紙を破りとると、それを校舎のほうへ投げた。紙は各々飛んでいき、見えなくなる。そして雪女が先頭になって校舎を徘徊し始めた。雪女から数メートル離れて歩く九条たちは変わっていく校舎の風景を眺めていた。
雪女が一歩、また一歩と歩くに連れて氷が廊下を這い、床から天井にかけて氷結していく。



「うふふ。こうやってたくさん凍らせるのは何十年ぶりかしら」



くるくると番傘を回転させながら雪女は上機嫌に笑っていた。氷結したせいで教室の扉は開かなくなってしまい、だれも教室から出られない。
やがて校舎全体を雪女が氷結させた。氷で出入りを封鎖しただけでなく、さきほど投げたダンの紙で扉は絶対に開かないようになっている。かく教室から上がる女子生徒の悲鳴に九条の喉が反応をした。九条はなるべく番傘で雪女が隠れる位置に立つ。



「おい、高蔵寺のいる教室はどこだ」

「三階の一番東側だ」

「そうか。よし、狼。行くぞ」



ロルフの狼を連れてダンが三年生の教室へ突撃していった。顔がバレないようにと仮面を近くの柱で錬成して被っている。
教室を開けると悲鳴が上がった。仮面を被った不審者と狼が現れたのだから当然だ。しかも雪女が遠隔操作で教室の中にまで氷を侵入させているのだった。

数分後、ダンは高蔵寺の手を引っ張って出てきた。狼が二人を守るように最後まで警戒したあと、扉が勝手に閉まり、ふたたび氷結された。



「ちょっと、離しなさい! いきなり何ですの!?」



高蔵寺は声を荒げている。
グッと吸血衝動に堪え、九条は何とでもない様子をした。



「高蔵寺、話がある」

「『あなたたちは私を見付けられませんわ』」



高蔵寺は手に持ったままだったシャーペンを、自身を掴むダンの手におもいっきり刺して逃走した。シャーペンが手に刺さり、つい手を話したダンはシャーペンを抜き取りながら舌打ちをする。狼に「追え!」と指示を出したあと、血を垂らしながら応急処置を始めた。
九条は目を背ける。



「ダンくん、大丈夫?」

「っ、こんなの錬金術でなんとかなる。まあ、中国の錬金術だがな。それよりも高蔵寺だ」

「高蔵寺ちゃん、言霊を使ったわ。こうなってしまえば私たちに彼女を見つけるのはほぼ不可能よ……」