午前0時過ぎ
 
 

「説得するほど高蔵寺が反対しているようには見えませんしね。聞いた限りでは。反対といういうより、意見の食い違いでしょうか」



高橋はふむふむと頷いて赤神に同意した。
人の考えは拳を交えたところで易々と変わるわけではない。そもそも、退魔師とはいえ一人を相手に多数で仕掛けるのはどうにも気が引ける。九条をはじめ、ロルフ、雪女も赤神に賛同した。やがてダンも「そうか」と頷いてボールペンをテーブルに置いた。



「じゃあ、高蔵寺ちゃんのところに行きましょう。ダンくん、あなたもよ」

「……俺も?」

「当たり前じゃない。仲間でしょう?」

「誰が仲間だ。あんなの事故だろうが」



ダンが舌打ちをした。なんだかんだと文句を言いながらもソファから立ってくれる。雪女がダンの後ろについて氷を要求している様を見ながら九条は隣で赤神に冷たくあしらわれている高橋の二人にため息をついていた。まるでいままでの逆のように見える。



「赤神は外に出ても大丈夫なんですか? 太陽とか」

「まだ朝でしょ? あたしなら堪えられるしらそもそもあんたを助けに行ったとき、昼間なのに外でたんだから。なに、あたしを心配してんの?」

「な、そんなバカな! 心配などしていませんよ! 勘違いしてません!? 別に僕は……」

「なんで急にツンデレ拗らせてんの」



ふい、と赤神が顔をそらしてしまって高橋は落ち込んでいた。ロルフは眠そうにあくびをし、狼が寄り添う。
ダンが水から氷を生成している最中、九条はゆっくりと高蔵寺のことを考えた。高蔵寺の寂しさは、九条も理解できるのだ。どうせ、九条の感じる寂しさなんて高蔵寺の抱えるものの半分にも満たないだろうが、それでも、九条は高蔵寺と同じように平和で何とでもない一日を願った。
高蔵寺や、みんなと、明日を――。



「準備できたわ。行けるわよ」



雪女が大きな氷を両手で抱える。
ロルフが真っ先に狼と玄関まで駆け、靴を履いて全員が来るのを待っている。ゾロゾロと玄関に行き、ドアをあけると、外は雪が降っていた。雪女が幸せそうに微笑んだのが分かる。九条と赤神はつい「ラッキー」と思った。灰色の厚い雲が太陽を隠すお陰で幾分か動きやすい。
全員で高蔵寺の家を目指すことになった。