午前0時過ぎ
 
 


「相手は言霊使いよ。言霊使いっていうのは退魔師のなかでもごく少数であまりいないわ。そして言霊使いといってもみんな同じじゃないの。高蔵寺ちゃんは『現象』を操れるみたいね。言霊使いは口にして言った物を造り出したり、そのまま何かに影響させたりと効果は様々よ。この繰り返しはまさに高蔵寺ちゃんの得意分野だったわけね。言霊の恩恵を受ける側の人ではどうしようもできない状況を打破する力だもの。1日の繰り返しという現象は私たちではどうしようもできないから」



雪女は自分の知る言霊使いについて語る。それを受け、高蔵寺を説得するのは骨がいると九条は頭を悩ませた。九条は高蔵寺がこの繰り返しになにを願ったのか、予測がついている。伊達に五年もつるんでいない。彼女にその願いを撤回させることはできそうだ。たが高蔵寺は言霊使い。目と耳を塞がれてはどうしようもないのだ。



「九条は高蔵寺がどうして繰り返しを願ったのか心当たりはありませんか?」

「……俺?」

「はい。この中で高蔵寺を一番知っているのは九条ではないかと」



高橋は首を傾げて聞いてきた。九条に背中を預ける形で座ってるロルフに「あんた九条になついてるね」と話しかけながら赤神は九条が口を開くのを待つ。ダンはメモ帳にボールペンを走らせながら。



「不思議に思わなかったのか? 高蔵寺が広い家に、家族もなく住んでいる理由」



九条はロルフを押し退け、眼鏡を持ち上げる。
ロルフは今度、赤神にもたれ掛かろうとして「犬臭い」と拒絶されていた。しふしぶ二匹の狼に背を預ける。
「……そういえば」と雪女と高橋が気付く。ここにいるほとんどは家族もを味わったものが少ないせいか、そのことに気付くことが遅かった。



「高蔵寺の両親は、高蔵寺が幼い頃に事故死したらしい。高蔵寺は一人暮らしだった祖母に引き取られた。つまりあの家だな。中学の頃までは祖母と暮らしていたそうだが、高校にあがってすぐに祖母も事故死したそうだ。……今思うと、退魔師だからただの事故死が連続したとは思えないが……。それで、高蔵寺は寂しかった。だから家出してフラリと現れた俺を拾ったわけだ」

「一人だったんだ……」

「たぶん、俺が平和な一日を願ったように高蔵寺は誰かがいる毎日を言葉に宿したんだろう。あの広い家に一人でいるのは寂しい」



ふ、と雪女が顔をそらした。
はじめから家族を取り上げられ教会に育てられた高橋には、家族のいない寂しさは分からなかった。
両親を吸血鬼に奪われた赤神は家族のいない寂しさを知っていた。
身の回りを自分の手で壊してしまったロルフには何もない空虚だけ理解できた。
生まれた時から周りはただの白しかなかった雪女にはそれに近いものがあった。



「で、どうする? 説得が駄目なら実力行使か?」



ダンは相変わらずペンを走らせたままだ。ダンに否定を示したのは赤神だった。



「ついさっきまで皆に迷惑かけてたあたしが意見するのも気が引けるけど、いいかな」

「実力行使じゃないのか?」

「高蔵寺、寂しいんでしょ? 説得っていうか、普通に話し合えばいいんじゃないの? 高蔵寺べつに作戦会議するほどでもないよ。話し合いをする。それだけでいいじゃん」