午前0時過ぎ
天井裏から戻ると、雪女が暖かい笑顔で四人を迎えた。本を開きながら試験管を睨むダンが「終わったのか」と呟く。赤神は九条と隣で気まずそうにしている。高橋が赤神に近寄ろうとすると逃げるため、なにかあったのは明白だが雪女とダンは深く追及しなかった。
「シルバーガンは要らないのか?」
ダンは聞く。赤神は少し、目を泳がせたあと頷いた。 そうか、とだけ言うとダンは本を閉じて実験器具を洗いに台所へ言った。 その間に雪女は赤神に近寄ってその手を掬い上げた。赤神は「冷たあっ!?」と叫ぶが雪女はお構い無く笑いかける。
「よかった、仲間に加わってくれたのね! これであとは高蔵寺ちゃんだけよ!」
「な、仲間……? 何の話? ねえ九条」
弟子に近い存在の九条に赤神は聞く。自分を恋愛対象としている高橋には近付きたくなく、そして日本語が遅いロルフに聞いてもまともな答えを得られないと判断したのだろう。九条はあかるさまに面倒くさそうな顔をした。赤神が「なんであんた、そんな顔すんの」と拗ねる。そんな吸血鬼二人を目の前に、雪女は手を口にそえた。
「あらあら、説明してないの? あのね、赤神ちゃん。私たちはこの一日から脱出したいの」
「ああ、うん。あたしも出たいけど……。てか初めはそのつもりで集まったんじゃなかったっけ?」
「なんやかんやでうやむやになってた」
「ふうん……。で、どういうこと?」
「この繰り返しは言霊によって成されているのよ。あと不幸を呼ぶ金神が原因ね。むしろすべて金神のせいよ」
「雪女、金神と仲悪いの?」「犬猿の仲」「かなり仲悪いじゃん。よく仲間やってるね……」赤神は呆れたように息を吐く。九条も吐きたかった。
「脱出ならあたしも協力するよ。自殺なんて騒いで迷惑かけたみたいだし……。雪女もごめんね」
「いいのよ。一緒に脱出しようって思ってくれたならそれで」
「まあ、まだ正直……悩んでるんだけどね。死ぬこと。でも私は九条に教えられること教えてないし、ロルフの国に行きたいし。高橋との勝負も決着ついてないしね」
「そうよ、前向きに考えるのが一番よ! そのほうが楽しいわ!」
雪女が赤神をなで、赤神は「冷たいってバカ!!」と手を振り払う。 赤神が協力することにより、あとは高蔵寺を説得するだけとなった。しかし相手は言霊使い。言葉に関することなら相手はほぼ無敵だ。
「作戦会議するぞ」
そう言ったのは意外にもダンだった。何事にも非協力的な態度をしめしていたので心変わりが気になるところだが、それには賛成だ。ここにいる全員が、リビングのテーブルを中心に集まりはじめた。
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