午前0時過ぎ
 
 

ロルフは暗闇でもよくわかるほど爛々と輝く金色の瞳で赤神を捉えた。無言で高橋から赤神を引き剥がし、赤神の後頭部を床に叩き付けた。ロルフの手は赤神の首を掴む。ロルフの狼そのものの瞳と赤神の鬼の目が睨み合った。



「馬鹿」

「……」

「俺だって、好きで……こんな、こんなことになってない。人狼なんて、なりたくなかった……。ただの人が良かった」

「あんた……なんで泣いてんの?」

「この身、何度……呪った、ことか……! 満月は見たくない。月は嫌いだ。……でも、自殺なんて、考えたことはなかった。赤神……、ドイツは行ったことあるか」

「……ないよ」

「フランス、イタリア、イギリス、スイス、スペイン……。世界は広い。いつか……、吸血鬼を、誇る日が来るかも、しれない」

「そんなこと、あり得ない。今、こんなにも嫌っているのに」

「高橋は、半吸血鬼を嫌ってない。九条は吸血鬼を嫌ってない。……赤神は?」

「嫌いだよ。ロルフは人狼が好きなわけ?」

「……嫌い」



赤神がそっぽを向いた。ロルフは九条の方を向いて「次、なんて言ったらいい……?」と聞くので九条は冷たく「知るか」と突き放した。



「赤神」

「今度は九条?」

「なるべく赤神に、俺は死んで欲しくない。理由は単純だ。赤神が死ぬと俺や高蔵寺たちが悲しむ」

「知らないよ。あたしはもう生きるのが嫌なんだってば」

「とくに高橋が」

「恋愛なら他でやって」

「他にもあるぞ。一人欠けるとここから出られない。この繰り返しから出ることが難しくなる。ここは言霊の力と、運悪く金神のせいで繰り返しが起こっている。明日になるには、言霊の力を必要とする。一人いなくなると力が弱まる。辻以外に、もう減らしたくない」

「それ、あんたの我が儘じゃ……」

「赤神だって我が儘だろ。ここに赤神に死んでほしいと思ってるやつは誰一人いない」

「だからなんなのよ。死ぬなって? あたしの命をあたしがどう使おうと、あたしの勝手でしょ? 放っておいてよ」

「赤神、ダンにシルバーガンを作らせてるらしいな」

「……」

「残念ながら、そのシルバーガンを使っても自殺はできない。正当な方法じゃないからだ。シルバーガンを使って吸血鬼を殺せるのは、ここには高橋しかいない。その高橋が一番赤神が死ぬのを嫌がってる。どっちにしろ、赤神は死ぬことはできない。吸血鬼を殺せるのは半吸血鬼か、聖人のみだ」

「……そ、そんな、嘘……」

「あとで俺が撃ってやろうか? 赤神は死ねない。死ぬことは諦めるしかない」



赤神は悲しみに満ちた表情をした。それは絶望したかのようで、ロルフによって倒されたその身体を起こす。
赤神は死ぬことを望んでいた。それなのに、死ぬことは出来なかった。不死と言われようと吸血鬼にも死は存在する。その死はごくわずかな方法であった。両親を殺した吸血鬼に吸血鬼にされ、まるで命のない道を辿った。皮肉な人生に終止符がうちたかったのに、それは不可能。
赤神は絶望した。死ににくい吸血鬼の身を呪った。