午前0時過ぎ
 
 

高橋に説得など必要なかった。すぐに高橋は「はい、いいですよ」と微笑んだのだ。



「やっぱり、実際に五年も同じ一日を繰り返していたら考えも改まるものよね……」



感慨深く雪女が一人で頷いている。
まあ、確かに。そう九条は思う。姉から逃げるように高蔵寺の家に潜り込んだが、今では姉のしっかり向き合いたいのだ。まあ、あのときは割りと本気で「このままずっと姉に会わずに、今日みたいななんでもない日が続けばいい」と思っていた。



「そうですね。今日しか赤神を殺せないと思っていて、やり直しを願ったのですが。まさか本当に繰り返すとは。当初は嬉しかったのですけど赤神も繰り返しを願っていたので無意味でしたね」

「俺は……間違えただけ、だけど。な」



ロルフを励ますように二匹の狼はロルフの顔を舐めている。はあ、と重たいため息をもらしてロルフはその顔を狼の毛に埋めた。



「……朝っぱらから人の家でなにしてんだよ」



普段よりどんと低くなった眠そうな声でダンは九条たちをあきれた目で見ていた。九条、高橋、ロルフは僅かな物音が耳に届いていたが、唐突にダンが登場して雪女は驚いて近くにあった九条の腕を掴んだ。服越しにもわかる雪女のひんやりとした手に九条は珍しく「冷たっ!」と声を張った。



「お前らには常識がないのか。ったく」



フラフラと頼りない足取りでダンはお手洗いに向かう。半分くらい寝惚けているようで、洗面所へのドアと間違えたり、引かねば開かないのに押したりしていた。「うふふ、かわいい」と雪女は微笑んでいた。



「次はダンを引き入れるか? それとも赤神を先に何とかするか?」

「私は男の子ばかりだから一人くらい女の子が欲しいわ」

「ダンが先ですね。赤神の居場所を知っている見たいですし。それに彼も脱出しようと思っています。一言声をかければ良いでしょう」



雪女のみの反対だったのでダンから声をかけることになった。ダンが出てくるまで皆で狼を撫でて遊び、ダンが出てきたとたん、全員の目の色が変わった。九条以外。
ダンが集団行動を嫌っているのは今までの態度をみれば十分わかることだ。ただ単純に声をかければ良いということではない。

二匹の狼はロルフに云われて物陰から獲物を狙うように気配を消してドアが開くのを待ち、ロルフはアクビをしつつもその眼は狼と同じ。高橋は白衣の内側に手を入れ、雪女も静かに様子を見守っていた。
ドアが開く。そして全員がダンを取り押さえようとした。ここには金神がいない。最悪の状況になっても前回のように負けはしないだろう。



「ダン、協力してほしいことがある」



なんと、九条が説得に動いた。警戒のあまり、室内の気温を下げ続けていた雪女はやる気を削がれ、そのおかげで室内気温は上昇する。