午前0時過ぎ
「……で。なに、するの?」
ロルフはさっそくなにをすべきか、九条と雪女に聞いてみた。ロルフはいつでも戦えると言わんばかりに手の関節を鳴らしているが、残念ながらそんなことは必要ない。
「とりあえず言霊使いの高蔵寺以外の人をなるべく多くこっち側に率いれる。だけ」
「この世界ってつまり私たちの言霊が原因なんでしょ? だったらこの世界を覆す言霊を発せられればいいのよ。でも、私たちは一度でもこの世界を望んだのよ。このままがいいって人もいるでしょう。きっと高蔵寺ちゃんはこのままでいい派」
「高蔵寺は、こ、ことぅ、ことだ……コトダマつかい、だからラスボス……ってことか」
「ラスボ……?」
「ロルフの言いたいことはわかった。雪女も『ラスボス』の意味を懸命に考えなくていい。そこまで深い意味はないから」
言い慣れない「言霊使い」をブツブツと繰り返して練習するロルフと、着物のそでを積まんで真剣に「ラスボス」の意味を考える雪女。文化と時代錯誤を同時に引き起こす彼らに九条は眼鏡を持ち上げながらため息を吐いた。
もぞ、と高橋が寝返りをうった。 高橋なら協力を惜しまないだろう。もともとこの世界から脱出するために知り合ったようなものだ。ダンも出たいといった素振りを見せたことがある。金神も嫌がってはいない。あとは荒れている赤神と、反対派の高蔵寺だ。 九条には高蔵寺がこの世界を望む理由に心当たりがあった。5年間もなにも知らないまま過ごしてきたわけではない。
恐らくこの世界に居たいと願うのは高蔵寺ただ一人。 九条は、彼女をこの状況においてまで孤独にしてしまっていて申し訳なく思っていた。
「さて。じゃあ次よ。赤神ちゃんを説得しましょう!」
「それより高橋の同意を得たほうが早い」
「ごー」とやる気のなさそうな指示を九条がロルフの狼に出した。一匹はそっぽを向いて無視したが、もう一匹は九条の指示に従って高橋を起こしに言った。「犬……じゃない」とふて腐れたロルフは無視だ。
狼が高橋の腕に座り、口で高橋をつついたりする。そうして高橋が目を覚まし、そして狼が眼前にいて驚いてソファから落ちた。頭を強打した。
「な、なんです……?」
狼は高橋が落ちる瞬間に飛び退いて綺麗に着地するともとの位置に戻ってきた。 頭をさすりながら体を起こした高橋は、九条、雪女、ロルフが並んでいる光景に首を傾げた。
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