午前0時過ぎ
 
 

九条と雪女が手を組み――おまけに金神がいる――、その早朝からダンの家に伺うことになった。まだ日の昇りきらぬうちに出たのは、九条が吸血鬼であるためだ。太陽に弱い九条と、昼前は暑くて外に出られないと言う雪女を考慮したのだ。高蔵寺はやることがあるといって、九条と雪女が先にダンの家にいくことになった。金神は家から出たくないというわがままで、早朝から外に出たのは二人だけだ。



「その着物は、制服?」

「着物というか……、まあ、制服」

「学生が着ているのをよく目にするわ! でも九条は学校に行かないでしょう?」

「楽だから」



などと雑談を話しながらダンの家に向かう。真冬の朝は寒い。雪は積らず、ただ冷えた空気が地を這っていた。霜で白く輝く雑草を、露柱たつ地面を音を鳴らして進む。ダンの家までは15分程度で到着できた。小さなアパートのベルを鳴らす。出迎えたのはロルフだった。



「九条。ひさしぶり」



相変わらず目の下の隈の濃い、眠そうな顔付きだ。いつもつけているシンプルなヘッドフォンは首にかけたままだ。ロルフの後ろには二匹の狼が控えている。



「ひさしぶり。……他は?」

「寝てる」

「そうか。上がってもいいか?」

「いい……と思う」



ロルフがスペースを開けたので九条と雪女は中に入った。途中で軽く狼の頭を撫でる。リビングのソファに高橋は横になって寝ていた。リビングから繋がる二つの部屋のうち、半開きのドアの向こうにはダンが実験器具を前に、机の上で突っ伏して寝ていた。



「ロルフくんは寝ないの?」

「寝ない。夜行性、だし」



雪女の素朴な疑問に、ロルフは顔を見せないまま答える。二匹の頭を撫でていた。ロルフのいつも通りの様子を確認して、九条は「そうか」と口数少なく返す。



「満月が嫌い?」


昨日のことを思い出して、雪女はロルフの隣に正座した。狼の頭を撫でるためにしゃがんでいたロルフは雪女が隣に座ってもその事に関して文句は言わなかった。



「キライ。大切なものばかり、壊す。でも肉は旨い」

「ここにいたら毎日が満月よ。今夜も満月。毎日を繰り返しているんだもの。……でも、死なない。新鮮な肉はそこらじゅうを歩いてるのよ」

「俺は……。明日が、欲しい」



ロルフのギリ、と歯を食い縛るおとがした。対照的に、雪女はホッとした表情をする。彼の言葉は本心から思う言葉。雪女は自身の雪のような冷たい手でロルフの頭を撫でた。



「私たちも明日が来て欲しいと思っているわ。そして、そのために行動することにしたの。ロルフくん、あなたも協力してほしいわ」

「……」



ロルフは無言で雪女を見、そして九条を見た。九条は頷く。そしてロルフは狼の目を見た。最後に雪女へ戻り、返事をする。



「もちろん」