午前0時過ぎ
 
 

少し、雪女は押し黙った。
失言だったかと九条が気まずそうにする。



「そうね……。その質問に答えるのは難しいところよ。でも、時が進むことは苦ではないと思うようになったわ。たとえ何がどうなろうとも、朽ち、そして新しく生まれ行く時代を美しかったのだと思うようになったのよ。私の恋がどうなったって、未来の私が見る過去の私は汚物ではないはずよ」



清々しい表情をしながら雪女は語る。すべてを受け入れる姿勢が、儚く美しい。まるで雪のように触れたら溶けてしまいそうなほどだった。
金神は「あまり美味ではない」と呟く。本人がそれを幸せだと感じているようだ。時代の移り変わりが美しく見え、そして幸せだと感じられる雪女。九条は返す言葉を失った。

雪女は美しい。



「私に聞くなんて、あなたは一日を繰り返すことがもう嫌なのかしら?」

「……そうだな。いつまでも逃げていては前に進めない。俺は前に進みたい」

「進むために何か努力をしているの?」

「してない。どうしたらいいのかわからない」



九条は首を振る。「なら!」と雪女が両手を合わせてにこにこと笑って見せた。金神の呆れた目付きを徹底的に無視して提案する。



「九条くんと私でなんとかしてみましょう!」



と。男をコロッと落とす無邪気な笑顔で、そんなことを言って見せた。金神の目付きの理由が分かった。九条がもう一度聞き直すと、また雪女は笑顔で繰り返してくれた。



「……はあ」

「む。あのね、この一日を繰り返すっていう奇妙な仕組みは言霊が原因なのよ。だったら時間の進む世界を取り戻せばいいじゃない。言霊を用いて」

「そうか。上書きすればいいのか」

「そういうことよ。でも今回は金神の加護はないわ。正真正銘、私たち一人ひとりの言霊だけよ」

「だったら手っ取り早く高蔵寺から……」

「ええ、高蔵寺ちゃんから引き入れたほうがいいかもしれない。でも、高蔵寺ちゃんは言霊使いよ。説得しようとしても逆に説得されかねないわ。まず仲間を増やしましょう。ダンくんあたりからどうかしら」

「目の前にいる金神はいいのか?」

「金神にはできるだけ力を押さえてもらうしかないわよ。彼は言霊を使っていないもの」



そうか、そういえばそうだった。九条は口にせず納得したように何度も頷いた。