午前0時過ぎ
 
 

「辻ちゃんが成仏できたのなら吸血鬼だって浄化くらいされるわよ。ある意味、正当な方法では九条くんだって、人間として死んで吸血鬼として生まれ変わったじゃない。本来ならまたリセットされて人間に戻ると思わない?」

「……ああ、確かに」

「でしょう? ただ殺すだけでは死なないけれど、正当な方法なら変化は起こるのよ。そういう意味ではこの世界は未完成ね。高蔵寺ちゃんが未熟なのか、私たちの掛けた想いが弱かったのか。恐らく後者ね。ただ口にしただけで言葉には言霊が宿るもの。願いを込めた言葉に比べれば弱いわ」

「なあ、雪女と金神も一日が繰り返すことを願ったんだよな? 一体、どんな……?」



「いいたくないならそれでもいい。気になっただけだ」と九条はダメ元で聞いてみる。どうせ答えてくれるわけがないだろうと思っていたが、雪女はなんとでもないと教えてくれた。



「私は、私の愛した人の子孫がいると聞いて雪山から降りて旅をして、ここにたどり着いたのよ。見付けたときは嬉しくて、彼の面影がどこか残っていて『私の愛した人が私のせいで死にませんように』と願ったらこれよ。きっとみんなが正当な方法以外で死なないのはこれが原因じゃないかしら。もしくは、死なないように時よ止まれと思ったのかもしれないわ」

「なんと悲哀な恋だ。実に美味だな」

「あなたの趣向なんて興味ないわ。それに、あなただって言霊を発したのではないの?」

「俺をお前たちと同じにするな。俺はそんなくだらんこと、一度も考えたことがない。俺は金神だ。つまり疫病神よ。俺のいるところに不幸がある。俺が何もしなくても、そこにいるものに不幸が訪れるというもの。俺がいるからお前たちは今、閉じ込められている」



つまり、金神はなにもしていないと。ある意味、この事態になったのは金神のせいだとも言えるのではないか。だったら金神がこの状況を打破できないものか。仮にも神だ。



「――俺はなにもしないぞ」

「……」

「金神でも神だからな。人間ごときに手を出したりはしない。いつも貴様らが勝手に俺の影響を受けてるだけだ」

「……」

「七殺をするほどの金神がよくいうわね」



ふん、と雪女は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
九条はこの仲の悪さに呆れるところもあったが、あとひとつ。確認したいことがあった。相変わらず流れる汗を拭き、雪女を直視しないまま九条は口を開く。



「金神はともかく、雪女に確認したいことかある」

「あら、どうしたの?」

「雪女は、いまでも、それを……望んでいるのか? 時が止まることを」



九条は家出をして見付からないようにと……、不幸に悲しむ姉が、もう涙を流さないようになんでもない一日がずっと続けばいいと願った。しかし、それはただ逃げていただけだった。九条は、五年前の願いを捨て去って、この一日から明日へ、明後日へ。進みたいと願うようになっていた。