言葉の鎖
 
 
「私の情報提供の具合はいかがでしょう?」



高蔵寺が微笑みかける。どこか、哀しげだ。
そうとも知らずに高橋は開いた口を閉じられないままポカンとしていた。



「なぜ、今までそのことを……」

「私が言霊使いだと発言する必要がありませんでしたわ。それに、これは私だけではなく、あなた達も原因。心身一転しなければ、この世界は永遠ですわ」

「しかしこれでまた脱出への糸口は見えました。きっと脱出できますよ」



高橋の言葉に、高蔵寺は反応しない。九条の視界には高蔵寺しか入らず、彼女の感情を汲み取っていた。汲み取るが故に、どうしたらいいのか九条には分からなかった。



「ふむ……なるほどな。分かった。赤神の居場所だな」



ダンは一度顎に手を添えて考える素振りを見せたが、すぐに交換条件に応じた。九条たちを認めたようで、やっと向かい側のソファに座ることを進めた。高橋から座り、自然と高蔵寺を挟むかたちになる。九条たちが座ったのを確認すると、ダンは赤神の居場所を教えてくれた。



「赤神ならうちにいる」

「は?」

「ここだ。だが、今日のところは帰って貰おう。あんな状態の狼男をうちに置いておきたくない。お前の言霊とやらでなんとかして、帰ってくれ。ついでに雪女も持ってけ」

「なぜ帰れというのですか」

「あの吸血鬼は、元人間なんだろ? しかも魔眼を使えるっていう。そんな才能ある吸血鬼が、今は興奮状態なんだ。会ってどうする? 半吸血鬼として死んで、吸血鬼にでもなるのか?」

「……僕は……」

「今だって、ギラギラした目で俺たちを見てるだろ。下手に話し掛けると殺されるぞ。俺も死にたくないからそのままにしてる」

「……出直します」



高橋はそっと目を伏せた。
奥から「お帰りですか?」と雪女の声。「お前もお帰りになれよ」とダンが皮肉を言う。先に九条が立ち上がった。



「雪女は引き受けても構いませんわ。ですがロルフは置いていきますわよ。私の言霊は『現象』を起こすものに秀でたもの。人狼の力を抑えることはできませんわ」

「まさかあの犬、うちに置いてくってのか!?」

「連れて帰れないんですもの」

「女の吸血鬼に理性を失った人狼……。死にたくねえ」

「吸血鬼には半吸血鬼ですわ。高橋を置いていったらどうですの?」

「止めろよ、男はむさ苦しい」

「どうせ繰り返す一日。死にはしませんわよ」



九条を追うように高蔵寺は立った。「でも、かわいそうですからロルフは抑えてさしあげますわよ」と言うと、立て続けにそのあと、高蔵寺は言霊を使って見せた。



「『今夜の月は雲に隠れて、姿を見せませんわ』」