言葉の鎖
 

この話題に入る前に、高蔵寺は唇に指を触れさせた。なにか迷っているような様子を、五年も同じ日を過ごした九条は見逃さない。高蔵寺に声を掛けようとしたが
そのまえに高蔵寺が口を開き、九条が高蔵寺をあんじた言葉が出ることはなかった。



「言霊……って、知ってます?」



ダンと高橋のヨーロッパ圏は首を振った。九条が唯一「聞いたことはある」と反応してみせる。雪女は心配になったようで、ロルフの側に行っていてもうこの場にはいない。
高蔵寺は九条を含めて男三人に本題の説明に入った。



「言霊とは、言葉には魂が宿るという考えのようなものと考えてくださいな」

「言葉には魂が宿る?」

「そうですわ。放った言葉には魂が宿り、いずれ現実になりますのよ」

「……」



質問をしていた高橋は唐突に口を閉ざし、目線を外した。高蔵寺は様子が変わった高橋を一度気にしたものの、説明をつづけた。



「私は退魔師のなかでも、言霊を操る言霊使いですわ。……私が、ダンに提供する情報とは、この一日が無限に繰り返される狂った世界は、言霊によって起こった現象なのではないか、という推測ですわ」



高橋は口をかたく閉ざしていた。九条は口をかたく閉ざすことはしなかったが、ただ、高蔵寺のことをずっと見ていた。いつからその事に気がついたのだろうか。いつから知っていたのだろうか、と。



「なるほど。じゃあ、この狂った世界は言霊使いのお前が望んだのか?」

「まさか。私一人ではこんな現象を起こせませんわよ。私だけではなく、このループに捲き込まれた全員が望んだ結果ですわ。金神を除いて、私たち全員。九条。あなたは一度でもループに関わるようなことを、ループの起こる前におっしゃいませんでした?」

「……言った」

「私もそうですわ。高橋は?」

「ええ、言いました。一度、願ったことがあります」

「ダン、あなたもそうでしょう? 赤神も、ロルフも、辻も、雪女も。以上が、私の推測ですわ」



高蔵寺は微笑んで見せる。

九条は、確かに「この日がずっと続けばいい」と口にしたことかあった。九条の姉は極端な不幸体質で、いつも周りが死んでいて悲しんでいた。九条は、自分が死ぬと姉が悲しくなると思い、自分は生きなければならないと思った。しかし、自分にはどうしようもできない運命はたびたび起こり、このままでは自分が死に、姉を悲しませると思った。だから姉の不幸が届かない所まで家出をし、その先で手あったのが高蔵寺だ。九条は高蔵寺と暮らすことになって、そして願ったのだ。不幸なんてない日常が、ずっと続きますように――、と。