言葉の鎖
 

「……」



ダンは呆れていた。非常に呆れていた。いままで生きてきて今日ほど呆れたことはない。



「おじゃまいたしますわ」

「待て待て待て待て。なんで俺の家が集合場所みたいになってんだよ。なんでみんな揃ってうちに来るんだよ。帰れ!」

「俺もう帰りたい。面倒臭い……」

「なにを言うんですか九条」

「なに言ってんだよ高橋。どう見たって人口密度が高いだろ。過密地帯じゃないんだぞ、ここは。定員オーバーだ。九条の言う通りさっさと回れ右をして帰れっつの!」



ダンは苛立ちを隠しもしない。腕を組んで、唐突に家を訪れて来た九条、高蔵寺、高橋、ロルフにそのまま怒りをぶつける。ロルフは二匹の狼と外の通路で楽しそうにじゃれており、九条はすでに帰りたいといいながらロルフたちの遊びに参加する。



「まず時間を考えろよ。夕食時だぞ」

「今日のご飯はなんですの?」

「……ビーフシチュー」

「あら!」

「しかし高蔵寺。イギリス人の食事は不味いですよ」

「喧嘩売ってんのか。とにかく帰れ!!」



ダンは大きな音をたててドアを閉めた。しかし直後に再びドアを開け、先程とはちがう鋭い目線をロルフに投げた。



「おい、なんで犬が人間のままなんだ? 満月でてるぞ」

「あら、不思議ですわね」

「そういえばそうですね……」

「……」



九条も眼鏡の奥からロルフを見つめる。ロルフも首を傾げた。本人も原因は分からないらしい。やがてロルフがゆっくり口を開けたと思ったら「犬……じゃないって」と訂正しただけだった。そのあとロルフは狼たちと何事か会話をする。

九条は空を眺めてみた。奥の方にオレンジ色がのこるものの、それは夜空へと顔を変えている。まだ月が登りきっていないからだろうか。
ダンもそう思ったようで、空から目線を外しながら再びドアを閉めた。
外では高蔵寺が冷静に「高橋、出番ですわ」と言い、高橋は頷く。そしてダミアン宅のドアはあっけなく半吸血鬼によって破壊された。



「なんでこの短時間で二度もドアが破壊されなくちゃいけないんだ!?」



青筋を立てたダンが姿をあらわす。メモ帳から一枚の紙を引きちぎる。その隙に高蔵寺をはじめ、追い出されていた四人がダンの家に潜り込んだ。



「失礼しますわ」

「お邪魔します」

「痛っ、引っ張るなよ高橋……」

「……お、じゃま、します……?」

「お前ら失礼だとか邪魔だと思うなら帰れ!!」