言葉の鎖「愛してる」
 

化け物は赤神キヨを愛していた。
彼が教会からの刺客であるハンターに追いかけ回されていたときに赤神の救いの手があった。はじめは恩人だった。しかし自分の世話をし、優しく接する黒髪の少女に徐々に惹かれていったのだった。今では恐ろしいほど赤神を愛していた。自分の全てを捧げて、彼女を愛していたい。今、こうして赤神の血を喉に通しながら、どうやってこれからも赤神を愛することができるのか考える。やがて結論が出た。



(She also should I become a vampire.)



出た結論は、赤神も自分と同じ吸血鬼にすることだった。吸血鬼は不老不死とも呼ばれ、永久の若さと命を手に入れる。ずっと、ずっと、赤神と。

赤神が次に目を覚ましたのは、あの地獄のような絶望を感じた夜の、その一週間後だった。真っ暗な部屋なのに、不思議と空間の把握ができた。赤神が起きたとき、首筋に激しい痛みを感じ、そして意識を失う瞬間までの記憶を思い出した。
すぐに恐怖が自身を駆け巡り、勢いに任せて立ち上がる。手足は自由だ。縛られていない。ここがどこなのか把握するよりも早く、赤神は外に出ようと床を蹴った。二階があるわけではない一般的な家庭では、すぐに玄関は見付かった。外は美しい月明かりが地面を銀色に照らし出している。眩しい。そう思いながら赤神が一歩踏み出すと、力強く手を引かれてそれ移行動けなくなった。



「ッ!」

「……逃ゲルのか?」



彼だ。赤神の両親を殺した――。
小さく赤神の口から悲鳴が漏れる。



「キミも、オレと同じ」

「な、何を……。離して!」

「同ジ化物。これからも、ズット、一緒。愛してる」

「離して!!」

「愛してる」

「やめて」

「愛してる」

「やめてよ……」

「愛してる」

「や、やだ」

「愛してる」

「嫌よ、……やめてって」

「愛してる」

「いやだ、は、はなして」

「愛してる愛してる」

「いやだ、いやだ! はなしてってば! やめて!」

「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」

「やめて!! お願いだから離して!!」

「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」



狂っている。歪んだ愛。赤神は自身を束縛する手に恐怖を抱いた。振り払おうとしても上手く力が入らない。
まだ恋も恋愛も知らない無垢な少女は初めて他人に愛されたが、その愛は歪んでしまっていた。赤神にとって、愛とは、恋とは、殺意に滲むものへと変貌する。愛を囁かれても、沸き上がる感情は殺意のみ。愛とは殺意。愛されれば、殺したくなる。結果、赤神は何年も愛を囁かれたあげく、彼をグチャグチャの肉塊にして殺した。赤神にとって、他人に愛し愛されることは、こういうことなのだと、深く刻まれた。
望んでもいないのに吸血鬼にされ、化物にされた赤神はその先を、ずっと、ずっと、生き苦しんだ。