言葉の鎖
 


「赤神が出ていった!?」



大声をあげたのは高橋だった。隣に座っていた九条は耳を抑えて顔を背ける。大声をあげた高橋とは対照的に、ロルフは静かに頷いた。すると金神が耐えきれないと笑い出した。



「ここまで、ここまでこうも不幸が続くとは!」

「金神、人の不幸を高笑いするものではありませんわ。赤神が出ていったなんて一大事ですわよ」

「笑わずにいられるか! ははははっ。これは誰か死ぬかもしれんぞ」

「死にませんわ」

「ほう。ははは。お前が言うのなら死なないだろうなぁ……」



金神は高蔵寺を見定めるように眺めた。余裕のある上からの目線を高蔵寺はにらみ返す。金神はすぐに興味が削がれたようで、次に九条をみた。



「そもそも、このループはお前のせいじゃないのか」

「何を言うか。俺は何もしてはおらん。神は直接手を下したりしない。俺は金神だ。俺がいる所に不幸が起こる。これは現象だ。なあ?」



金神はまた高蔵寺に話しかけた。高蔵寺は困ったり迷惑そうにするわけではなく、ただ金神を睨んでいる。



「なにを知っていますの?」

「知っているのはお前の方だろうが」

「っ」



九条、高橋、ロルフにはわからない話だ。高蔵寺と金神が何の話をしているのかでさえ、わからない。――いや、ロルフはわからないと顔に表して困惑するより、何か考えていた。一体何を考えているのか。何を考える必要があるのか。九条には知るよしもない。

九条と高橋は完全に置いてかれていた。まったく状況が分からない。



「と、とりあえず赤神のことですが……」



無理矢理に高橋は話題を戻した。高蔵寺は高橋の戻した話題に参加し、相手のいなくなった金神も参加することになる。一方でロルフは当然のように赤神の居場所を言い当てた。



「あいつなら、ダンの家に……いる」

「なら」

「なんで高橋は……赤神を追う?」

「彼女を確実に仕留めるのが僕の仕事だからですよ」

「……じゃあ、追わなくていい。赤神は、じ、じさ……自殺……するつもりだから」



ロルフの淡々とした言葉を最後まで聞くよりも早く高蔵寺が勢いよく立ち上がった。開ききった目にはたくさんの感情が映っており、九条には読み取ることができなかった。すぐに高蔵寺は我にかえって座り直し、こほんと咳払いをした。



「……なぜ、赤神は死にたいと思うのでしょうか。これまで、僕がいくら命を狙っても、素直に差し出すことはありませんでしたよ。それなのに、唐突に……なぜ?」

「高橋には……わからないことだ……」