言葉の鎖
 

赤神とロルフが玄関で驚くなか、九条と高蔵寺は帰ってきた。どんよりとした雲が空を覆い、いつもより暗い色になっている。二人の他に、一緒に行ったはずの辻がいない。



「九条、高蔵寺……、辻は……?」

「成仏した」



恐る恐る聞く赤神の問いに、九条は簡潔に答えた。肩に積もる雪を払いながら、九条は高蔵寺の手を引いて家のなかに入れる。高蔵寺に元気がないのは明らかだった。どうして元気がないのかは、辻が成仏したという事実を聞けばおのずと分かる。



「やっぱり。正統な方法なら消えることができる……」



赤神が呟いたが、それに気がついたのはロルフと二匹の狼だけだった。ロルフは眠そうな目を一度赤神に向けるだけで何も言わず、すぐに興味が失せて雪を気にした。

毎日の繰り返し。
最近は繰り返しの被害に遭っていないものたちが集まっている。九条たち八人は同じ一日を繰り返している。八人以外に変化はない。いつも決まった時間に、同じ会話をしながら小学生が通りすぎ、同じ番組が放送され、同じ人々とすれ違う。同じ、同じ、同じ、同じ。
天気だって変わるはずがないのだ。昨日の「今日」と同じはずなのに。



「それにしても、この天気はなんなの?」

「俺たち以外に九人目もいるんだろ」

「あたしと、高橋さんと、九条、高蔵寺、犬、金神、ダン……そして辻。まだ一人いるっての? 五年も隠れてたってこと?」

「俺と赤神が会ったのも最近だけどな」

「雪を降らすって……、明らかに人間じゃないよね。ふうん……、そう。探しにいくの?」

「まだ」



九条は首を振った。相変わらず余計なことは喋ろうとしない九条は高蔵寺を気にしたまま家のなかに入っていった。玄関は二人と一匹になる。



「赤神。……俺も同じ……だ」

「何が?」

「このループ……。どうして繰り返すのか、少しは、気付いてるんじゃないのか……?」

「なんでそう思うの? 知らないかもよ」

「……死にたいのか」



ロルフはストレートに聞く。赤神は大きく目を開けたが、すぐに閉じた。



「あんたも後天的だったっけ?」

「こう……て……?」

「ちょっと難しかったか。もともと人間だったんでしょ? 噛まれたの?」

「噛まれた。この間まで……人間だった……」

「あたしもだよ。だいぶ昔に、吸血鬼にやられた」



赤神は自分の首筋に触れた。悔しがるというより悲しがるというより、赤神は怯えるような表情をする。一匹の狼が不安そうに赤神のもとへ寄る。赤神は両手を使って狼を撫でる。



「人狼は嫌?」

「嫌だ。……俺には、もうこいつらしかいない……」



こいつら、と、ロルフは狼に触れた。



「でも、こいつらと会えた」

「あたしは吸血鬼でいるのが、本当は苦しい」



赤神は立ち上がった。そして、なんの前触れもなく高蔵寺の家から飛び出していったのだった。ロルフと二匹の狼は、なにもしないでただ見送った。