辻伊吹の成仏
 

「そういえば高橋は人間のご飯が食べられるようですわね」



高蔵寺が高橋の食べる姿を見ながら首を傾げた。そういえば赤神も高橋も吸血鬼であるのに高蔵寺の作ったシチューを食べていたことがあった。九条だけでなく辻も口には出さないが高橋の返答を待つ。



「僕は半分が人間ですからね。人間の食事で栄養を摂ることくらいできますよ。吸血鬼も食べることはできますが、それでは死にますね」

「味はしますの?」

「九条に試して貰えばいいですよ」



そう言って、高橋は九条を手招きする。九条は明らかに嫌な顔をして見せた。しかし高橋の隣に座っている高蔵寺が無言の訴えで「来なさい」と言っている。辻に激励されて九条は仕方がなく高蔵寺と高橋の間に立った。すると高蔵寺がスプーンに乗せたオムライスを九条の口に突っ込んだ。



「ゲホッ、ゲホゲホッ。ふざけんなよ、高蔵寺……!」

「思ったより奥まで突っ込んでしまったようですわね……、ごめんなさい」

「そもそも突っ込むなよ……」



九条はため息をついた。口を動かしてオムライスを噛む。



「あら? あ、あら? 九条ってこんなに大人っぽかったでしょうか?」

「高蔵寺、気を付けてください。吸血鬼は異性を魅了して虜にします。気を確かに!」

「そうなんですの? 助言ありがとうございますわ。助かります」



こいつら、こんなに仲がよかったか?
今度は九条が首を傾げた。



「味がない……」



九条が驚き、それは高蔵寺と辻に蔓延した。金神には蔓延していない。
これが吸血鬼か。九条はかつてのオムライスの味を思い出そうとしたが、うまくいかなかった。



「人間でいうなら、消ゴムを食べてるようなものだよ。それ」



あくびをしながら赤神が居間に入ってくる。忌々しく窓から入り込む日光を睨んで、それから狼と戯れる。まあ、九条にとってはいい経験なんじゃない? と、赤神は狼から離れると高橋に極上の笑顔で挨拶した。必要以上に高橋に絡む赤神を嫌そうにして、高橋は九条に助けを求めたが、九条が面倒だと無視をする。



「そういえば辻、どこか行きたいところでもあるのか?」



高橋から逃れるように九条は辻に話題を振った。辻は肩を揺らして驚き、「学校」と短く答えた。