辻伊吹の成仏
 


「なんで辻は……ゆ、ぼ……? ゆう、れい……なの?」

「えっ? し、死んだ、から……」

「もぐもぐ。……なんで?」

「……え? え?」



肉を二匹の狼と分けながらロルフはなんてことのないような様子で質問をしている。狼たちも人間の言葉を解しているのか、その目線の先はロルフと同じく辻に向いていた。

生肉に食欲をそそられない九条は、ロルフに突っ込もうとした。人の死因を軽い気持ちで聞くものではないと。しかも本人に。死にまつわるもののほとんどは軽々しい気持ちで聞くべきではない。そこには辛い鎖が絡まっていることなのかもしれないのだ。
辻なら、なおさら。



「死因」

「わ、私の死因は、自殺……だよ」



不安げに眉を八の字に下げて辻は呟くように言う。
同時に、止めようと二人の間に入ろうとした九条のことを赤神が引き止めた。九条が睨んでも赤神の赤い目はロルフと辻の方を見ていた。



「……」

「あたしもあの犬と同じことが気になってた」

「何が」

「てゆーか、九条が最初に辻に死因を聞いたくせに何止めようとしたんだか。まあいいけど。あたしが気になってることといえば、その自殺をした理由。そこに辻が成仏できるヒントがあるんだと思うんだよねー。自殺なんてそうとうな理由だよ。あんたが自分から吸血鬼になりたいって言うくらい」

「……そんなに俺が自分から吸血鬼になるってのがおかしいか」

「おかしいね。まあ、それで私はまた死ななくても済んだから助かってるんだけどさ」

「ならいいだろ。別に」

「めんどう臭そうにいうけど……、あんた、想像してみな。自分から進んで化物に食われに行く馬鹿がどこにいるっての」



吐き捨てるように赤神は言った。どこか悲痛の表情をしている。それは一見、九条を責めているようにも見えるが、違うような気がする。九条はその眼鏡の奥から赤神を不思議そうに見た。



「なんで自殺した?」



ロルフの低い声に、九条の視線はするりと赤神から外れた。
隈の濃い金色をした瞳は辻のことをまっすぐ見ている。辻は困るというよりも思いつめた様子だった。



「いじめ……られてたの。女の子と、男の子のグループから。それで、私は逃げたくて、でも逃げられる居場所なんてなかったから、死んだの」



ロルフの圧迫感と、赤神の鋭い視線が辻を追い詰めたのだろうか。辻は本当に逃げ道のない様子だった。そこへ、まったく別の人物が辻を救った。



「こんな真夜中になにをしていますの?」



高蔵寺だった。