食事
 

「九条と赤神、そしてロルフを置いていきましょう。私たちは帰りますわ」

「俺はまだ泊めるとは言っていない。殺すぞ」

「いいえ。あなたは九条たちを殺せませんわ。確実に彼らも自分と同じだと存じていますもの」

「ふん。根拠を聞こう」

「吸血鬼や人狼に時間を操るような力はないはずですわ」

「看病などはしないぞ。あと勘違いはするな、鬼ども。俺はお前たちの味方ではない」



ダンがソファに落ち着くと、高蔵寺は九条にさらさらと手を振って出ていった。「高橋さぁーん!」と喚く赤神に困った表情を浮かべながら高橋と辻も後に続く。最後に金神は振り向いて、九条たち全員に言った。



「犯人探しをしても無駄だぞ」



そして部屋には四人だけが残った。九条と赤神はずっと意識を失ったままのロルフを看病して、ダンは自由に過ごしていた。たまに、外から狼の鳴き声がする。
夜になり、九条は空腹に腹を擦った。心なしか喉も乾いている。
本当に九条たちのことなど気にも止めず、ダンはずっと自室にこもっていた。そんなダンが一度「ビーフシチューでも作ろうか?」と聞いてきたが、赤神が断っている。

九条はロルフを見ながら吐息を溢した。そうすると赤神が九条の手をひいて立ち上がり、外へ連れて行った。入れ違いになるように、九条たちがあけたドアの隙間をぬって二匹な狼が入って行ったが赤神は気にしない。



「あたしはあんたを吸血鬼にした責任がある」

「俺が望んだことだ」

「たとえそうでも、教えなきゃいけないことがたくさんあるんだよ」

「……教える?」

「食事の仕方や、吸血鬼の力の使い方とか、日常生活で注意しなくちゃいけないこととか。……半吸血鬼の高橋さんとは違うから、あたしたち」

「そうか」

「このループが終わったら九条は学校に行くの?」

「高校を中退する気はないからな」

「じゃあ昼間の過ごし方とかも教えないとね。あたしの血が混じった吸血鬼だから太陽には弱くないし、あんた才能あるから魔眼も使えるようになるかもね」

「才能か……。力の制御とか、できるようになるか?」

「要は、心……理性の強さだよ。面倒臭いなんて言ってられないからね」



夜の道をスタスタと歩いていく赤神の後を九条がついていく。赤神はふと、コンビニの前にいる複数の若い高校生を見つけると立ち止まった。九条は遅れて止まり、相変わらずやる気のない表情で赤神と同じところを見た。そしてまさか、と息を飲む。



「人間の社会に紛れ込むなら理性を捨てちゃいけない。けど、いままでの常識は全部放棄しな。そして自分は人間ではなくなった、吸血鬼なんだと、しっかり刻み付けなよ」