高橋救出作戦・神
 

呼吸がやっと整った九条はゆっくり立ち上がった。フラフラとしていて足がおぼつかない。しかしその姿を見て赤神は驚いていた。赤神だけではなく、その場にいる全員が九条から目をはなせない。



「嘘……。もう立てるの?」

「ありえませんわ……。吸血鬼になるということは一度死ぬということ。それなのに、九条は」

「ふん。怪異の才能があるのかもしれんな。いいことなのかどうかは知らないが」



ダンは鼻で笑うと銀の棒を一斉に九条に向けた。まだフラフラと立つ九条に、だ。
複数の棒はヒュンッという音が鳴って空気を滑り、九条へ向けて弾丸のような速さで動いた。

九条は自分が何をするべきでどうしたらダンの攻撃を避けられるのかを知っていた。自分の力もよくわかっていて、どうやって駆使するのかもわかっていた。直感的な感覚だ。九条が顔をあげて、赤神や高橋よりも赤く爛々と光る瞳をダンに向けた。その瞬間に棒は九条を貫く。否、九条がいた場所だ。
高蔵寺の隣で風が起きて、そちらを向けば九条がいた。九条自身もその速さに驚いている。



「あはは……、九条って才能あるんじゃないの?」



赤神は苦笑気味に言うと、怪我ひとつない身体を霧に変換して部屋に消えた。

唐突に、奥の部屋のドアが開いた。

吸血鬼に覚醒したばかりの九条と、反撃をしようとする赤神、そしてロルフを介抱する高蔵寺が驚く。それはダンも同じ。
現れたのは長身の男だった。男にしては長い黒髪をして、切れ目が鋭い。着物を着た古風な男だ。彼は辺りを首も動かさず見渡して、静かに腕を組んだ。



「あんた誰?」



霧から元に戻っている赤神の言葉に九条も同調した。
それすら無視をして男は部屋に戻り、片手に半泣きの辻を抱えて再び出てきた。



「この小娘は何だ?」



低い声が男から発せられる。「あたしの質問に答えろよ!」と赤神が喚いてもそれは無視された。ダンはその男を睨んでいるが、部屋から出てきたということは仲間である可能性がある。



「金神、ですわ……」

「疫病神が出てきたのか。厄介だな」



九条は落ち着いた声で舌打ちをした。捕まっている辻は泣かないと涙を堪えて金神の腕の中で必死に足掻いており、赤神はそれを助けようとするもダンに阻まれた。



「そいつはあいつらの仲間だ」

「ほう。ならば返してやらんと可哀想だな。ほれ」

「え?」



ダンの答えに金神は頷いて、辻を床に立たせた。ぽかんとする辻を横目に、金神は欠伸をする。
九条も高蔵寺も赤神も、辻と同じように度肝を抜かれた表情になっている。



「ああ、お前らはあの鼠を取り戻しにきたのだな。いま返すからこっちに来なさい」



部屋に戻っていく金神に、九条たちはもうどうしたらいいのか分からなかった。部屋から顔を覗かせて「来ないのか?」と金神が九条たちを呼ぶので九条と赤神が部屋に行くことになった。背後で辻が高蔵寺に泣きつき、ダンが金神に向けて怒鳴っていた。