高橋救出作戦・血
 


銀の棒を引き抜くと血が溢れ、ロルフは座り込む。ロルフの後ろにいた赤神は「なんでかばったのよ……」と小さく呟いていた。高蔵寺がすぐに駆け寄った。着ているブレザーを脱いで止血する。九条も上着を脱いで高蔵寺を手伝った。



「『お願いだから血よ、止まりなさい、止まりなさい』!」



泣きそうな表情で高蔵寺は繰り返す。赤神はすぐにダンと対峙して戦闘に戻った。霧に変化する能力と超人的な身体能力がダンを翻弄しているが、彼には焦りがない。赤神は得意気に微笑んでいて、すべてのダンの攻撃を回避していた。



「ロルフが怪我をした原因がお前にわかるか?」

「うっさい死ね」

「ここには疫病神がいるからだよ!」



ダンの剣が赤神の肩を貫いた。赤神は左腕をぶら下げ、べろりと唇を舐める。高蔵寺はロルフに夢中で、九条は赤神の身をすぐにあんじた。



「……っだから調子が悪いのか。昼間のせいかと思ったけど」

「そもそも昼間に来る、ということ事態が金神の手中だ。残念だったな」

「……っ」

「俺には『今日』ではできないことがある。そのために死ねよ」

「あたしだって『明日』じゃないとできないことがあるの。死ぬのはお前だ錬金術師」



双方一歩も譲らない。赤神は自分の血を舐めて不気味に笑った。ダンは相変わらず余裕の笑みだ。いくら生身の人間が相手だからといっても彼は錬金術師。吸血鬼と人狼の弱点をもち、しかも金神を味方につけている。
九条はある可能性を考えていた。しかしそれはすべてを捨てることにもなる。この町を出て姉のもとに戻ることが叶うのかわからなくなってしまう。たった一人の血の繋がった家族と再会できることができなくなるかもしれない可能性だ。しかし捕らわれた高橋や大怪我をするロルフ、怪我を追いながらもダンと戦う赤神。なにより高蔵寺の壊れてしまいそうな表情が胸を貫いた。姉の元に帰ることはまたあとで考えればいい。

いまは、目の前にある仲間の手助けを。願わくば、救いたい。




「赤神……!」



九条は動いた。床を蹴り、赤神にばかり気をとられていたダンの腹を殴り飛ばした。勢いをつけて殴ったためか、ダンは膝をついた。そこを九条がさらに蹴る。すると銀の剣がひとりでに動き出して九条に狙いを定めた。するりと地面を滑るように剣は九条の影を貫いた。間一髪でそれを避けた九条はそのまま血が滲む赤神の腕をつかんで思ってもいなかった言葉を叫んだ。



「赤神、俺の血を喰え!」