高橋救出作戦
 

「あたしたちに喧嘩を売っておいて放置ってのはないんじゃない?」



唇を舐める赤神は吸血鬼らしく見え、彼女が味方であることが頼もしく思えた。高蔵寺を後ろにさげ、二人はダンに襲い掛かった。ダンは表情に一片の曇りも浮かべないまま懐からメモ帳を出して一枚千切った。そしてその紙を壁に押し付ける。すると壁がズルズルと動いてダンの盾となった。赤神とロルフはダンに到達することが叶わなかった。



「ちょっと犬! あたしは日本人で錬金術師なんて知らないから説明してよ」

「錬金術師ってのは、いまある物質を合わせて合成したり、分解したり、こうやって変形させ……る」

「さっきダンとかいうやつが押し付けてた紙ってなんなの?」

「錬成陣が描いてある紙……。あれがないと、錬金術はならない」

「つまりあのメモ帳をついでに引き裂いてやればいいのね! 錬金術師を倒せばついでに若い血が手に入る!」

「肉……」



壁が元に戻っていく。ダンの姿が露になった。ダンのすぐそばには床に突き立てた銀の剣があり、両手で先程つかった紙を散り散りに破いていた。
花びらのよいにそれを舞わせると、ダンは右にある眼帯の位置を直して剣を引き抜いた。そして構える。




「あの、二人とも大丈夫?」



赤神とロルフがダンと戦うなか、辻は首を傾げながら九条と高蔵寺に近付いた。二人が大丈夫だというと彼女はほっとする。目の前ではまるで映画のような光景が繰り広げられていて、九条は冷や汗が流れる。我に帰って、これはなんの汗だろうと疑問に思った。



「まずいですわ……」

「え? なにが?」

「辻、まさか忘れてはいませんわよね? ここには錬金術師のダンだけではなく、金神もいますわ。彼は疫病神の一種ですのよ。錬金術師を倒せるか……」

「……?」

「あ、そ、そっか! どうしよう、私たちに何か出来ないかな」

「……では、辻には高橋がどこにいるのか捜してきてほしいわ。出来ますか?」

「うん、大丈夫。こんな私でも役に立てることがあって、嬉しい……」

「自分を謙遜しすぎですわよ。貴女は魅力的で素晴らしく立派な人間ですわ……」

「!」



驚いた顔をして、それから照れ笑いをしたあと辻の姿はパッと見えなくなった。
そのとき、ボタボタと液体が落ちる音がして九条がそちらを向けば、腹から血を流すロルフの姿がそこにあった。ダンがにやりと極悪人のような笑みを浮かべる。ロルフの腹に刺さっているのは複数の銀の棒だった。最初にダンが飛ばしてきたものだ。