高橋救出作戦
 

「おい錬金術師のダン! このあたしに喰われろ!!」



赤神はロルフにここだといわれた部屋のドアを蹴り破った。その後ろをロルフが何食わぬ顔でついていき、高蔵寺はひきつっていた。相変わらず九条は面倒臭そうな目をしていて、辻は吸血鬼の馬鹿力を目にして怯えている。



「インターファンを鳴らしてから入れよ」



そんな声が部屋の奥から聞こえてきた。そして唐突に銀色の物体が飛んできた。九条はすぐに高蔵寺を抱き締めて床に倒れ、それを回避した。辻は避ける必要がなくそれは体を抜けた。赤神とロルフもそれぞれ避け、そして赤神は飛んできたそれを確認すると驚いた。
それはペンほどの大きさしかない銀だった。銀系武器は吸血鬼と人狼の弱点だ。



「入ってきた早々に殺す気満々じゃん」

「招かざる客に正当防衛をしたまでだ。というか招いてないのになんで入ってこれたんだよ」



そう言いながら部屋の奥からダンが現れた。一人暮らしとは思えない広さだ。奥から現れたダンはカッターシャツを着ているが楽な格好をしている。ちょうど眼帯をつける最中だったようで、両手は頭の横に掛かっていた。

ダンは赤神をはじめ九条たちを睨んでいる。赤神は対抗するように明らかに敵意の眼差しで返してやりながら言う。



「吸血鬼がいつまでも一度招かれた家じゃないと入れない体質なんて思わないでよね」

「……ああ、もしかして後天的な吸血鬼か。赤神は。まあどう見たって日本人だしな。途中経過に何かあったと考えてもおかしくない」

「そんなことはどうでもいい。高橋さんを返しなよ!」

「お前たち全員が死ぬなら返してやってもいいな」

「!?」



ダンの唐突な注文には赤神が怯んだ。その隙をついてダンは再び銀の棒を飛ばした。先程落ちた銀の棒だ。まるでサイコキネシスで操っているようだ。辻は驚いていたが、九条と高蔵寺はそれよりもそれが弱点である吸血鬼と人狼の身をあんじた。
ロルフはすぐに避けるものの、怯んでいた赤神は遅れてしまう。



「『赤神、避けなさい!!』」



高蔵寺の声に従って赤神はすぐに避けた。銀の棒は誰にも当たることなく宙をさ迷うだけに終わった。



「なんで俺たちに死ねなんて言うんだ」

「勇気ある一般人の質問に答えてやろう。このループに捲き込まれた奴は九人いる。ここには雪女を除いて全員がそろっていて、その全員に容疑がかかっている。まず俺が犯人なのはありえないから除外され、金神もありえない。だから取り敢えずお前たちが死ねば脱出できる」

「言いがかりですわ。私からすればあなたたちだって怪しいですのよ」

「じゃあ一般人の九条と人狼のロルフと亡霊の辻は死ななくてもいいから高蔵寺か赤神が死ね」

「私たちは死にに来たわけではないですわ。高橋を返しなさい」

「話をそらすな」

「そらしていませんわ。初めからこの話をしていましたわよ」



高蔵寺とダンが睨み合う。
しかしそれを遮るようにロルフが高蔵寺の前に立った。ロルフの近くには目を真っ赤にする赤神がいる。