高橋救出作戦当日
 


「今が冬でよかった」



そう言って赤神はフードを深く被り、白い息を吐いて遠くを見た。その赤神を差切るように九条は「こいつ馬鹿だろ」と呟き、それに容赦なくロルフが頷いた。



「やっぱり昼間は留守番をしてたほうが……」

「高橋さんの危機に昼も夜も関係あるかぁーっ!!」

「ひ、ご、ごめんなさい」

「謝る必要はありませんわ、辻。意中の殿方を助けるために太陽に焼かれても構わないというのですわ。死んでしまうかもしれないのに。惜しくもせっかくの仲間を失ってしまいましたわ……」

「……うん、せっかくの吸血鬼……、残念。大切な戦力は一匹いなくなったけど、俺がいるから。あとは俺に、まかせろ」

「ええ、ロルフ。期待してますわ」

「え、なんで高蔵寺と犬はあたしを死んだことにして話してるの? 生きてるよ? てかあたしの数え方って匹?」



また一日が始まり、昼間になると全員で高橋を助けにいくことになった。ロルフを先頭に九条と高蔵寺がならび、その後ろに赤神と辻がいる。ロルフが連れていた二匹の狼は高蔵寺の家に留守番だ。昼間から町で狼をつれ歩くわけにはいかない。
高橋を助けることに一番気合いを入れているのは赤神だった。昼間であり、吸血鬼であるにもかかわらず外に飛び出している。フードで頭を隠し、肌はほとんど露出されていない。



「辻は無理して来なくても良かったのに」

「た、たしかに怖いし、私にはなにもできないと思うけど、でも仲間なんだよね? 会ったことはないけれど、仲間なら私も行かないと……」

「まあ。素敵な志ですわ。九条も見習いなさい」

「めんどくさい。つか高橋の救出とか俺がいなくても平気だろ」



ふん、とそっぽを向く。一般人でただの人間である九条にできるのは辻と応援するくらいだろうと思っていた。

一行の先頭にいるロルフはときどき迷子になり、そのたびに高蔵寺と赤神から怒られながらもなんとか目的地についた。それはマンションだった。



「ここ」

「ここ? 普通のマンションじゃん」

「ここに高橋がいる。ダンと金神のにおいもする」

「あんの錬金術師め……!」

「ちょっと赤神。待ちなさいな。神もいるのは厄介ですわ。作戦を――」

「大丈夫。金神は、ニートだから。なにもしないはず」

「……神がニート?」



ロルフと赤神の人外はどんどん先へ進み、遅れないように人間の三人は追いかけた。