人間、吸血鬼、人狼、錬金術師、幽霊
「たとえばの話なんだけど、俺が幽霊に憑かれたって言ったらどうする?」
「お寺に連れて行きますわ。それとも私がお経を読んだ方がよいのでしょうか」
「いや……。たとえば、だから」
「それもそうでしたわね。てっきり九条のうしろにいる女の子のことかと思ってましたわ。私の早とちりでしたわね」
放課後の帰路、九条は立ち止まった。数歩遅れて高蔵寺も止まり、眉を片方さげている。首を傾げて「どういたしましたの?」と平然といた声音で九条に聞く。九条はすぐ後ろを振り返った。幽霊の少女はいまだななめ下の地面をじっと見つめながら九条のあとをついてきている。
「なんだ、見えるのか」
「見えますわ。足がありませんので幽霊でしょうね。全体的にぼやけてますわ。いつから彼女がついてきているんですの?」
「一限目から」
「まあっ」
「まあ、って……。どうしたらいいんだよ。こいつ。高橋や赤神は喰えないだろ」
「ひっ」と小さく幽霊が悲鳴をあげた。 くすりと高蔵寺は笑う。
「あなた、どうして彼のそばにいるの? 彼がなにかしたのかしら」
「あっ……。い、いえ」
幽霊の声はとても小さかった。高蔵寺は優しく聞く。一方的に無視をしていた九条は高蔵寺に「大丈夫か?」と聞くが彼女は頷いてみせるだけであった。
「わ、私の姿、みえるひとがいなくて。それに毎日みんなおんなじで。ずっと休んでいた九条くんっていう男の子が今日来たから、不思議で」
「あなたも気が付いていたのですわね。明日が来ないこのループに。凄いですわ。昨日の今日からいっきにここまで被害者を見つけられるだなんて……」
「幽霊も巻き込まれるようなものだったのかよ、このループ」
「前例をみたわけじゃないのだから例外なんて私たちにはわかりませんわよ」
「人間、吸血鬼、半吸血鬼、人狼、錬金術師、幽霊……あとは何がひっかかるんだよ」
「今朝、錬金術師のダンは金神と言っていましたわ。金神とは疫病神の一種ですわ。神様もひっかかってますわね」
「神まで巻き込めるって……俺たち抜けられるのかよ。この無限ループから」
「あ、の……」
九条が幽霊を見れば、彼女は怯えてびくりと肩を震わせた。「な、なんでもない」と地面に顔をむけながらふるふると頭を振った。九条はもしかして、と彼女にからだを向けた。幽霊の少女は心底怯えた表情をして一歩下がった。
「お前、死因は?」
「ちょっと九条。そういうことは……」
「……じ、じさつ」
高蔵寺が九条の肩をおさえて咎めようとしたのだが、うつむいたままの幽霊が相変わらず小さな声で九条に答えた。高蔵寺は九条を咎めるのをやめた。
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