学校へ
 


高蔵寺に高橋が行ってしまった理由をつげると彼女は「あら、そうですの」とだけ言った。家の中に入っていく高蔵寺はおちついていた。九条は特に大きなリアクションをするほどの出来事ではないと思うと、高蔵寺のあとについて台所に入っていった。
テーブルの上には朝食の味噌汁とごはん。そしていつも通り焦げた目玉焼きもある。高橋の分はすでに流し台行きだ。



「つか高橋って吸血鬼なんだろ? 大丈夫なのか、朝から外に出たりして。太陽に焼かれるんじゃなかったか?」

「彼は赤神と違って半分だけ吸血鬼なのですわよ。影の中に隠れながらついてるのでは? 人間の食べ物も食べていましたけれど、実はこっそり女の生き血を吸っているのかもしれませんわ」

「高蔵寺、寝込みに喰われたりしてないか? 大丈夫か?」

「心配ご無用ですわ。護身術くらい使えますもの」

「――そうか」



半分だけであれど吸血鬼相手に護身術が効くのか怪しいものだが、これ以上は言ってもただ延々と同じような話題が続くだけ。めんどくさい。何か言おうかと考えた九条も「めんどくさい」が優先されて、返事はそっけなかった。
高蔵寺はそれを気にした様子をみせず「今日は何をしましょうか」と話題を変えた。



「俺、学校に行く」

「時間がありませんわ。遅刻してしまいますわ、よ……、え?」

「学校に行く」

「唐突ですわね……。いつも同じで飽き飽きした、と言っていたではありませんの」

「昨日、赤神に学校のことを少し聞かれてさ。なんとなく行きたくなった」

「なら私も行きますわ。一人では退屈ですもの。赤神に一言残してから行きましょう」

「今から行ったら遅刻か?」

「急げば間に合いますわ。でも私、朝から走りたくありませんわよ」

「ん」



学校は高蔵寺の家から近い。学校には8時50分までに着けば良いので時間は十分にあった。
朝食を食べ終わったあと、九条はすぐに学校へ行く準備を始めた。高蔵寺はすでに身だしなみを整えている上、ほとんどの日に制服を着ているためすぐにでも行ける学校になっていた。

高蔵寺に「赤神には俺から伝えておく」といったあと、九条は長い縁側を通った。襖がピッチリと閉められている部屋の前に立つ。



「赤神、起きてるか?」

「……んんー……。寝てるよ〜」

「俺と高蔵寺は学校行ってくる。夕方には帰るから」

「いってらっしゃあーい。高橋さんは?」

「錬金術師を追い掛けて行った。いつ帰るかわからないけど、まあ、今日中だろ」

「んー」



眠たいようで、赤神ののんびりした声が襖の奥からする。布団を被っているようで、赤神の声はこもっていた。九条は一通りの用事を終えると自分の部屋に向かって歩いていった。