怪しい錬金術師
 


「俺の用は九条たちの顔を見に来ることだけだから、もう帰る」

「そっけないですわね。私たち全員の名前を把握していて、しかもこの家に現れるだなんて……。錬金術師というのは何でも知っているものでありますの?」

「……面白い。俺を疑っているのか?」

「いえ、そんなことはありませんわよ」

「ならば正直に答えよう。俺は無限ループの被害者側だ」




九条は隣で来客を睨む高蔵寺を盗み見た。高蔵寺はこの時間が進まない無限ループという現象にダンが犯人なのではないかと疑っていた。初対面なのに全員の名前を把握し、高蔵寺の家に訪れて悠々とした態度を見せるダン。怪しまないほうが無理と言うものだ。

九条は無意識に一歩下がる。高蔵寺の隣からずれた。同じように高橋も下がり、九条の隣に立つ。



「九条はダンのことをどう思いますか?」

「信用はできないと思う」

「同感です。しかし錬金術師では時間の無限ループができる摩訶不思議な現象は起こせないんですよ」

「なら他にも仲間がいるんだろうな。……あいつが犯人なら、の話。急に変化が起こりすぎて……なんだか……めんどくさい」

「無限ループさえ解放されれば僕たちは明日の朝日を拝むことができますよ。何をしてもリセットされて退屈な時間を消費し、なにも変わらないこんな時間を無駄にするより、これは良い変化です」

「……まあ」



九条は小さく頷いて高橋の意見に同調を見せた。
一日が繰り返されてしまえば、姉のもとに帰りたくても帰ることができない。無限ループでは死ぬことでさえも不可能だ。同じことの繰り返しで退屈な一日を送るより、明日を過ごしたい。明後日も、明明後日も。時間の流れを体感したい。無限ループから脱出したい。
一人ではないのだから、もしかしたら本当に脱出できるのかも。この変化があれば、本当に脱出できるのかもしれない。九条はポーカーフェイスで己に沸き上がってくる希望を隠しながらダンをみた。彼が、もしかしたら鍵を握っているのかもしれない。



「僕に案があります」

「え?」

「まず、彼のことを調べてみましょう」



腹の探り合いをしている高蔵寺とダンを見ながら高橋は小さな声で言った。

そのあとの行動は早く、高橋は二人の会話を切らせてそのままダンを帰らせることに成功した。不満げな高蔵寺を宥め、そして半吸血鬼の力で自分の姿を鼠に変身させてしまった。
鼠の姿になった高橋は影のなかに隠れながらダンのあとを追って行った。