急激な変化
 

翌日、予想もしなかった変化が訪れた。

朝、いつもの時間に起きたら怪我は完治していた。予想はしていたことだ。以前にも九条はたまたま包丁で指先を切ったとき、翌日になると跡形もなく小さな傷跡が消えたのだ。あのときは驚いた九条も、今になっては理解していることで、とくに驚いたりはしない。
時計をみると、午前8時を少し過ぎた時刻だ。いつもと一秒の狂いもなく起きている。8時11分になれば遅刻気味の中学生が家の前を通りすぎる。



「九条、起きなさい! 大変ですわ」

「……起きてる。何」



このとき高蔵寺はいつもなら朝食を作っているはずだ。今日はどうしたのだろうと九条は眼鏡を机の上に置いたままドアを開けた。



「あら、寝起きでしたの? そういえばこの時間は九条が起床する時間でしたわね。忘れてましたわ」

「……で、用事は?」

「ええ、高橋が今対応していますが……。出たんですよ、私たちと同じ時間に捕われない方が現れました」

「……は? え?」



昨日今日と急激な変化に九条はポカンと口をあけて丸くした。九条は眼鏡をかけ、上着を着てから高蔵寺と共に玄関まで降りた。そこには高橋と、見知らぬ金髪碧眼の青年がいた。
見たことがない。



「そう言えば赤神は?」

「陽が昇りましたのでもう寝ましたわ」

「昼夜逆転か。で、あれは誰?」

「私も存じませんよ」



困惑した表情で高蔵寺は溜め息をした。玄関まで歩いていくと金髪碧眼の青年は九条と高蔵寺を認識し、「朝早くに悪いな」と日本語で言った。顔立ちはまるで西洋の人間である。

ハーフということもあってか、高橋の日本語は綺麗。昨夜出くわした人狼は綺麗というよりも言葉と言葉を繋ぐことが難しいようで話すスピードが遅い。うってかわり、目の前の青年は日本人と代わり映えのない速度と発音だ。
九条はへえ、と感心する。



「昨夜の晩、ロルフがうちに来たんでお前たちが何かをやったのかと思ってな」

「待ちなさい。そもそも貴方は誰? 話はそれからですわ」

「申し訳ありません、Young woman」



恭しく一礼して彼は顔をあげた。
右目だけを眼帯で隠し、さらに眼帯を隠すように前髪が伸びている。艶やかな金髪が朝日を浴びて輝き、不思議な色をした瞳が三人を見据えた。毛先だけを黒く染めていることからミステリアスな雰囲気が現れている。その端整な顔立ちが不気味に思えるほど。



「俺は錬金術師のダミアン。同じ時間のループを過ごしている仲間。ダンと呼んでくれて構わない」