『明日』の予定
 

「な、なんてデリカシーがないの、最近の若い男子は! 謹み深く生きなさいよ……!」

「まあまあ、良いではありませんの? 食事でもしながらゆっくりお話ししましょう。九条の手当てを済ませますわ。椅子に座って大人しくお待ちくださいな」



高蔵寺は盛り付けた三人分の皿をテーブルに並べると救急箱を持って九条の手当てをする。遠慮なく傷口に消毒液を塗り込む高蔵寺に痛い痛い、と訴えれば高蔵寺は更に強く押し付けた。



「痛い思いをしたくなければ危険な行動に出るべきではありませんわね」

「……悪かった」



高蔵寺は怒っていた。そう考えるだけで九条は申し訳ない気持ちになる。
手当てが終わると、食事は華やかに恋愛の話題になった。初めのうちは恥ずかしがっていた赤神も次第に開き直り、オープンに高橋が好きだと言っている。
この恋愛話には高橋も興味を示しており、話題に加わっていない九条はぽつんと三人から独立していた。最終的に日本人男性は消極的でレディファーストの概念がなく、女性をリードしてくれないと愚痴を言っており、九条は更に居たたまれなくなったのだった。意外にも赤神は「男尊女卑の時代が長いんだから仕方がないよ」と言った。九条は眼鏡を外してテーブルに置いた。

夕食を終えると九条たちは居間に落ち着き、情報を交換し合うことにした。



「僕たちと犬の他にもこのループに気が付いてる人がいる可能性は高いのですね?」

「ああ、犬が言っていた『錬金術師』と『神』。それがあやしいな」

「そうだねえ。高橋さんは何かないの?」

「僕は鬼を追うので必死でしたからね……。赤神と犬以外の情報は期待できませんよ」

「あたし、昼間は寝てるからそういう情報って全然ないな」

「俺と高蔵寺も無い」

「どうやら犬に聞くしかないようですね。適当にスーパーに売っている肉を餌にして明日釣ってみましょうか。どうせ赤神が食事から血だらけになって帰ってくるでしょうし」

「待った、高橋。帰ってくるって、赤神、ここに暮らすのかよ。高蔵寺が許可したのか?」

「家ほど快適で昼間の太陽光を遮ってくれる素晴らしいものはないよ。高蔵寺もいいよ、って言ってくれたしね!」

「来るもの拒まず、ですわ」

「……高橋も?」

「誘われたら泊まりますよ。断る理由はありませんしね」

「……うるさくなりそうだな。面倒くさい……」



目まぐるしく変化が訪れた『今日』という一日で面倒なことになった、と思いつつもループから脱け出せる可能性に九条はわずかに高揚した。