血が香る参観日
 

「……そんなの、信じられるわけがないだろ」



九条は落ちた眼鏡を拾い上げて服で拭くとそれをかけた。高蔵寺も彼の話が信じることができず証拠を促す。高橋の黄緑色の瞳が二人を往復した。



「ならば、高蔵寺の血をご馳走になっても?」

「駄目だ! 吸血鬼に血を吸われたら死ぬんだろ? 高蔵寺を殺すな」

「それは残念ですね。他にも証拠を見せる手段はありますが……、まあ、今回は話を聞いてくれるだけで結構です。信じてもらうのがこの話の目的ではありません」

「そうね」



九条はふと思い出していた。高橋の瞳は黄緑色。それなのに初対面のときは赤かったように思える。何故。まさか本当に吸血鬼だとでもいうのか?
九条がじっと高橋を見ていると、パチっと目があった。細められる高橋の瞳。黄緑が一瞬、赤くなってもとに戻った。



「――!?」



なんなんだ、今のはっ!?

九条が目を丸くして考える。それをはじめた数秒あとに高蔵寺は口を開いた。



「私、貴方のお話を信じてみたいですわ」

「つまり……どういうことでしょう?」

「証拠を見せてほしいのですの。……あ、私の血を吸う方法以外でお願い致しますわ」



まるで九条と同じ考えだった。白黒はっきりさせたい九条は高蔵寺と同じ。半吸血鬼ならばその証拠を見たい。これで証拠を見せることができなければ、彼の話は嘘。人間だ。



「いいですよ。では夜まで待ってください」



高橋は素直に頷いて微笑んだ。










………………………………………










九条は防寒具を着て、高蔵寺は昼間と同じく学生制服のまま、高橋のあとを追いかけた。夜の町を、三人が歩く。高橋のあとについていくだけの二人にはその行き先がわからない。12月の寒い夜。雪でも降りそうな夜。
白い息を吐きながら九条は高橋に、自分達はどこへ向かっているのか聞いてみた。



「僕たちは吸血鬼を捜しているんですよ。目的地なんてありません」

「はあ?」

「吸血鬼が現れれば真っ先に九条は狙われるでしょうね。ついでに飢えた人狼まで血の臭いに釣られてやって来ますから危険ですよね」

「笑ってんなよ」



想像してみればそれは惨劇。残酷な一歩先の未来だ。笑って話す高橋はまるでお気楽だ。
高蔵寺は馬鹿馬鹿しい、と首を振る。



「冗談ですけどね。吸血鬼を見ればあれが人間ではないとわかると思います。人狼も。ついでに吸血鬼を殺しますけど。九条と高蔵寺の身の安全は任せてください」



高橋が言った直後、獣の遠吠えが響き渡った。三つの遠吠え。
高橋は静かに「人狼ですね」と言った。