来るもの拒まず、去るもの追わず
 


高蔵寺の目は終始強気だった。いや、まだ話は終わっていないため、終始という言葉を使うのはおかしいかもしれない。



「一般的に、この話を信じる人は少ないですけどね」



ため息とともに言うと、高橋はお茶を一口飲んだ。それから数秒だけ悩んで、九条と高蔵寺を改めて見た。



「これは通常、関係のない他人には話してはいけないことなんです」

「ここまで話しておいてよく言いますわ」

「ですから、僕を友達にしてください」



九条は飲んでいたお茶を気管につまらせて咳をした。高蔵寺は「……本気で言っていますの?」信じられない、とでも言いたげにしている。



「あなたたちが、こうして繰り返しに気が付いている僕を連れてきて話を聞いている。ということは、脱出を目的にしているのではないですか?」

「……そうだけど……」

「でしたら、仲間が多い方がいいじゃないですか。別に親友になりたいとは思っていませんよ、今だけ、脱出するまでの『友達』つまり仲間で構いません。あ、ああ、でも少しだけ仲良くしてほしいですね……。少しだけ、そう、ほんの少しだけ」

「私はかまいませんわ。私の主義は来るもの拒まず、ですのよ」



再び九条は喉をつまらせた。高蔵寺は拒むとばかり思っていた。でも、高蔵寺は家出をして、たまたまこの町にやってきた九条を拾ってくれていた。「来るもの拒まず」はあながち間違っていないように思える。



「高蔵寺、来るもの拒まずって言うなら去るものは?」

「追いますわ」

「そこは追うなよ」



試しに聞いてみれば九条は高蔵寺に無理矢理お茶を口の中に流し込まれた。余計な質問をするな、と睨まれる。



「九条はいかがですの?」

「まあ、害がないならかまわない」

「その点は心配しなくても大丈夫ですよ。男の血なんて不味いだけですから興味なんてありません」

「……血?」

「これから話すことに繋がります。信じるか信じないかは、どちらでもいいですよ。聞いてくれるだけで」



高橋はそのまま高蔵寺に質問された答えを続けて話した。



「鬼とは吸血鬼を指します。犬とは人狼のことを言います。つまり狼男ですね。鬼、吸血鬼を追う僕は吸血鬼殺し。吸血鬼と人間の間に生まれた半吸血鬼です。まあ、所詮はフランス人と日本人のハーフなんですけどね」



九条の眼鏡がずるりと落ちた。