三人目
 


「高蔵寺、あいつだ」



狭い路地裏へ向かう建物と建物の小さな道を通っていくさきほどの人物。そのあとを追いながら、高蔵寺はふと、疑問を口にした。



「ねえ、あれ男……よね」

「男だろ、体格からして。女みたいに髪のばしてるけど」

「あらら。貴方も男にしては長い髪をしていますわよ」

「切りに行くのが面倒くさい」



眼鏡のフレームを持ち上げながら九条は溜息をついた。高蔵寺が「私が切ってあげましょうか?」というが、悪戯な心の持ち主だ。九条がお願いします、とうなずくことはなかった。
彼の後を追って、進んでいくと、出口にたどり着く。そこは小さな公園だった。低い滑り台と一人しか使用できないブランコ。ブロックが三つほどしか積み重ならないジャングルジム。そのなかにある錆びたベンチに、彼は座っていた。赤い目を九条と高蔵寺に向けている。



(? こいつの目は確か黄緑だった気がするんだが……、気のせいだったのか?)



九条はほんの数分前の記憶を蘇らせながらわずかに首を傾げた。
彼は静かに立って、白衣についた汚れを取ると九条と高蔵寺にちかづいた。高蔵寺は警戒する。



「僕についてきて、何の用ですか? というか、君たち、誰ですか?」



顔は、明らかに日本人のものではなかった。堂々とした態度で、彼は九条を高蔵寺を見下ろす。九条も、高蔵寺と同じように彼を警戒した。もしかしたらこの人は殺人犯かもしれないと思うと、自然に体に力が入る。あまり明るい表情をしない九条が彼をみると、可愛らしい上目使いではなく睨んでいるように思う。



「貴方こそ誰ですの? 見たことない顔ですわ」

「……この町の人間を全員把握してる、みたいな言い方ですね」

「大方は把握してますわよ。とある事情で」

「とある事情……?」



彼は突然、目を丸くした。
それから目をふせて考え事をする。もしかしたら、彼は一日が繰り返されていることに気が付いていて、目の前にいる二人も自分と同じように気が付いた同じ人なのかもしれない、と考えているのではないか。そう九条は彼を見ながら予測した。高蔵寺は腕を組んで彼の次の言葉を待った。



「変なことを聞くかもしれませんが、最近この町から出たことはありますか? 電車で隣の町にいくとか……」



あたりだ。
九条は確信した。彼は自分たちと同じようにこの異様な状況に気が付いていると。同じこの日を繰り返しているのだと。五年も。



「なあ、お前は町から出られるのか?」

「! もしかして君たちは僕と同じで、この12月20日を繰り返しているのですか!?」

「どうやらそのようだな……」