変化を追う
こたつではないテーブルで、九条と高蔵寺は小さな会議をすることになった。誰かが身近で死ぬということは、今まででなかったことなのだ。
「もしかしたら、私たち以外にも今日を繰り返していることに気が付いている方がいるのかもしれませんわ」
「俺たちだけじゃないってことか?」
「そうね……」
テーブルの上にあるみかんの皮を剥きながら高蔵寺は眉間にシワをつくった。午前のハリがチクタクと動くだけの時間が少しの間だけ続く。九条はなんとなく過ぎていく時間にため息をついた。
「捜すか?」
「え?」
「隣の人を殺した人」
「犯罪者なんて危ないわ。人殺しよ」
「それはそうだけど……。いいかげん、明日が来てほしいだろ。唯一の変化を見逃しちゃいけない気がするんだ」
「……。……そう、よね……。初めの1年、私と九条は必死に明日をさがしてた。でも何も手がかりはなくて諦めたわ。今日が、いまがチャンスなのかもしれませんわね……」
ぱくりとみかんを口に放り込んで、高蔵寺は立ち上がった。いつも学校の制服を着ている高蔵寺と九条は、今すぐにでも外に出られる。半分になったみかんをまとめて九条の口に詰め込むと、高蔵寺は「とりあえず町に出てみましょう」とカーディガンを羽織った。みかんを詰められてむせる九条を放ったらかしにして高蔵寺は玄関に向かう。体を「く」の字に曲げながら九条は高蔵寺を追っていった。
「で、何か目的地でもあるのか?」
「ありませんわ」
「は?」
「歩くのよ。歩けば何か見つかるかもしれないでしょう」
「そうか……」
鍵でドアを閉めて、九条は高蔵寺のあとに続いて歩いた。
実は、彼らは町から出ることができない。目に見えない境界線から出ようとすれば、フッと意識を失って、朝からまた今日という一日が始まるのだ。この四年間、正確にはもうすぐで五年になるのだが、その歳月で九条と高蔵寺は境界線のことを学び、だいたいの位置の把握をしていた。
その境界線の内側を歩いて数十分。九条はふと、違和感を覚えた。ほぼ五年のあいだ、同じ日を鬱になりそうなほど繰り返していれば、誰がどこの方向へ向かって歩いているのかだいたい覚えている。その中で、極めて目立つ人物がいたのだ。
彼は薄いクリーム色をした金髪をサイドに纏めて縛り、黄緑色をした瞳が何かをさがすようにキョロキョロと動いていた。ワイシャツの上に白衣を羽織った格好のその人物は顔のほりが深く、明らかに日本人の外見はしていなかった。 派手な格好をしているわけではないのに、その容姿が妙に目立った。
「九条、どうかしたの?」
「あそこに、いままで見たことがない男が……」
「なにかの手がかりになるかもしれませんわね。どこ?」
「あっち……って、あれ?」
「……いつもと同じですわ」
「さっき、確かにいたんだが……」
「別に貴方を疑いませんわよ。とりあえず、彼がいた方角に行けば見つかるかもしれないわ。行ってみましょう」
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