The tale finished.

 

その日、物語は幕を閉じた。

転生さえも許さない魔王の封印は無事に成功した。世界をその手中におさめんと、世界各地に現れた魔王の手先はすべて、たった四人が葬ったのだ。

魔王はもういない。
人々を恐怖に震わせた、恐ろしい魔王は、たしかに四人が葬った。
勇者だと称えられた彼は、彼らは、いく先々で出会った人たちの想いを、支援を、すべて武器にのせて魔王を討った。
何度もいうが、魔王はもういない。葬ったのだ。
世界は平和になった。

またのどかに過ごす。森の歌声に耳を傾け、青空のもと、太陽にも負けない笑顔をたくさんみられる日がまたやってくる。
達成感が、豪華な剣をもつ勇者の胸を覆った。勇者は膝をつき、力が抜けたようにへにゃりと笑う。仲間の術者も、僧侶も、格闘家も、疲れはてていたが、よろこびゆえにみんな笑っていた。



「……あ」

「どうしたの?」

「お姫様……ッ!」



勇者の口から魔王に捕らわれていた人物の肩書きが漏れ、顔からサッと血の気が引いた。魔王に彼女が連れ拐われたのは物語の序盤。勇者はいそいで立ち上がった。ボロボロの重たい体に鞭をうち、無理矢理動く。全身が悲鳴をあげるが、勇者の頭にあるのは美しい少女の姿のみ。勇者の後ろについてくる仲間だって、勇者と同じだろう。


やがて、冷たい地下牢についた。門番に魔王の最後の手下がいたが、魔王の死を知るとあっさり勇者たちを中に送ったのだ。



「姫様!」



お姫様を見つけたのは僧侶だった。勇者がすぐに駆け寄る。
ぐったりと力ない彼女の体を起こし、勇者は初めて胸にグサリと剣を疲れた感覚を知った。

彼女の美しい雪のような肌が、赤いのだ。むさらきの代償様々な痣があちらこちらに散らばり、深い傷が肉を抉る。ろくに食べさせてもらっていないのか、最後に見たときより彼女の体は痩せこけていた。
上下に動くはずの胸は少したりとも動かず。氷のように冷たく、固くなった指先は真実を勇者に突き付けていた。

物語は幕を閉じた。

魔王の死が世界に幸せを取り戻した。

しかしお姫様のかなしい死は幸せを運んではくれない。

何度も何度も勇者は彼女を呼んだ。
肩書きではなく、親友として彼女の名を叫んで、強く抱き締めて涙を流した。

冷たい地下牢で、暖かいものなどあるはずもなく。