A boy's conclusion.

 

体育館裏という舞台は不良生徒が喧嘩をするベタな舞台のひとつだ。薄暗いその場所は人気がなく、人目を避けたいそれにはもってこいだった。姫小松は現在、そんな場所へ幼馴染みに連れてこられていた。朝比奈と五十嵐の二人に対して姫小松は腕を組んで拗ねた顔をしていた。



「取り合えず牛乳」

「僕の背が低いって言いたいの? 五十嵐や勇汰より低いけど朝比奈よりは高いからね」

「いや、怒るなってことだよ」

「その目玉にぶっかけてあげたいよ」

「痛いよッ!!」



紙パックに入った飲みかけの牛乳を拒否されて、仕方なく朝比奈は自分で飲みながら「ところで、本題に入るけど」ニヤリと笑った。姫小松は嫌そうにする。五十嵐も朝比奈と同じように笑い、姫小松はとうとう顔をそらして「鏡に顔面を叩きつけてやりたい」と呟いた。



「あのさ、直球にいうけどあんた林王のことが好きでしょ」

「はあ? 寝惚けてるの?」



姫小松の返事は即答だった。朝比奈はため息をつき、五十嵐が説明にはいった。



「姫小松って初恋がまだだもんね。ねえ、よく思い出してみてよ。本当に林王に対して憎しみだとか、そういう感情だったの? 恋じゃなかったの? 林王を捕らえたのは、本当は俺たちに林王をとられてしまうかもしれないっていう独占欲じゃないの?」

「ちょっと待ってよ、二人とも。まさか僕が林王が好きで、魔王の子孫だっていう復讐心じゃなくて恋愛感情だって言いたいの? ふざけないでよ」

「いや、復讐心のほうは否定しないさ。ただ、姫小松は林王が好きだっていうことに気が付いていないと思って」

「五十嵐、僕を説得できると思ってる?」

「気が付いたら林王を目で追ったり、少し触れるだけで心臓がうるさくなったり、林王のことを考えるだけで胸が苦しくなったり。本当に無い?」

「それは……」



姫小松が言いにくそうにモゴモゴと口のなかだけで言い訳を繰り返していた。朝比奈と五十嵐は困ったように肩をすくめる。

実際、姫小松は林王が好きだった。

前世の記憶と林王が魔王の子孫であることを意識すると復讐したいという感情が込み上げて、恋愛感情が隠れてしまったのだ。四月、桜並木のあるあの道で、姫小松は一目惚れをしている。
復讐したいという感情には嘘も偽りもない。だが、確かに恋愛感情もあったのだ。

復讐故の感覚だと思っていたそれはだんだんと恋愛感情に塗り替えられていった。

姫小松はだんだん顔が赤くなり、気が付いたら赤面をしていた。気がついたときには幼馴染みの二人がニヤニヤと笑っている。
ちょうどその時、携帯電話がヴー、ヴーと着信を知らせた。姫小松は場の空気を誤魔化すようにすぐに電話に出た。だが、それは林王からの電話。



『あ、もしもし。姫小松くん?』

「り、林王っ!?」

『へ!? な、何!? どうしたの!?』

「こほん。や、何でもないよ」



ニヤニヤとした笑顔を一層深くする嫌な幼馴染みをまた睨み、姫小松はだんだん顔が赤くなるのを意識しながら林王と話をする。



「で、なんだって?」

「帰るから玄関に来いって……」



安心して、3人だけの内緒にするから、と言われながら姫小松は玄関についた。それまでの道のりで何度ため息を吐いたことか。
三人分の鞄を軽々と持ち上げる凛とその後ろで談笑する林王と勇汰。姫小松はむっと口を尖らせた。姫小松のそんな様子に、朝比奈と五十嵐はくすりと笑う。

姫小松が林王を監禁したように、前世の記憶に捕らわれてしまうようなことがあれど。姫小松は林王が好きなのだ。

彼らは現在を生きると同時に、かつては世界を救った。殺伐とした記憶を持ちながらも、割りきり、戦い、日々を過ごすのだった。