Just before collapse

 


閉まっていたドアは全て、勇汰と凛が壊した。途中で拾った鉄パイプや、凛の超人的な身体能力で、四人を足止めするものは何一つ無かったのだ。



「姫小松ッ!!」

「っ!?」



あるドアを叩き破ると、その中には姫小松と林王がいた。やっと見つけた、と朝比奈が安堵するなか、勇汰は姫小松に詰め寄り、両肩を力一杯捕まえた。



「姫小松! お前は何してるんだ!!」

「……何も」



久しぶりに聞いた姫小松の声は、掠れていた。目の下には濃いクマをつくり、目線はどこを見ているのかまったく分からない。もともと、誰よりも薄い色をした肌が不気味だった。
姫小松よりもぐったりとしていた林王に五十嵐と凛が駆け寄って、調子を見る。五十嵐が林王の意識を確かめているとき、勇汰は姫小松を睨み続けていた。



「……すぐにでもここに来なかった俺も悪いけど……。姫小松!」

「待った。勇汰、姫小松を頭から叱りつけない。まずは落ち着こう。林王は五十嵐に任せて大丈夫だから。慌てない」

「慌てることなんかねえよ、朝比奈」

「そ」



勇汰は姫小松から手を離すと、姫小松は自分からフラフラと近くにある椅子に座った。

そういえば廃墟のわりにこの部屋の家具はやたら綺麗だな。姫小松が掃除したのか? と、朝比奈は眼鏡の縁を持ち上げながら部屋を見た。



「……勇汰も知っている通り、僕の人生は理不尽だったよ」



姫小松は虚ろな目でシミができた床を見ながらポツリと語る。声は小さいのに、部屋に響き渡るおかげで言葉はしっかりとこの場にいる全員に聞こえた。



「姫としての僕は、自分に悔しくて、理不尽を強いた周りの人や僕を殺した魔王を恨んで、恨んで、恨んで、恨んで、恨んで、精一杯恨んで、死んだ。人間が死ぬのはものすごく簡単で、それに比例して苦しめるのも、絶望させるのも簡単だってことを知ったよ。生まれ変わって、勇汰と朝比奈に言われるまえから薄々は前世の記憶だって知ってた。林王も、時間がたつにつれて只の人間じゃないことだってわかった。魔王と同じ血をひく林王が、僕になにかするんじゃないかって。林王を見る度に胸が苦しかった。もしかして死ぬんじゃないかって思った」



姫小松の言葉にだれめ口を出さないまま、静かに耳を傾けていた。姫小松は手首を無意識に擦りながら話を続ける。



「林王に復讐してやろうって思って捕まえたんだ。そうしないと壊れそうで、なにもしないで魔王の子孫と談笑するなんて気が狂いそうだった。でも、いざ捕まえてみると何もできないんだよね……。林王と魔王はまったくの別人だって、頭のどこかでわかってたんだ。林王は関係ないんだ。でも復讐をしないと壊れてしまいそうで」



ぽたりと涙を流しながら姫小松は苦笑していた。病みきった顔で、すでに、いまにも崩れて壊れてしまいそうに。