caged bird and a princess

 


「どうして早く言わなかったんだ、勇汰!!」



珍しく五十嵐は口調を悪くしながら走った。五十嵐の隣を走る朝比奈も、静かに勇汰を見た。朝比奈と五十嵐よりも一歩遅れて走る勇汰は躊躇った。三人より何歩も先を走っていた凛は「早く言いなよ」と急かす。勇汰は目線をそらして言いにくそうにしながら五十嵐に返事をした。



「姫小松の問題だと思ったんだ。俺が口を出すべきじゃないって」

「勇汰の阿呆ぉ!」

「ぐあっ!!」



凛は勇汰の腹へ飛び蹴りをくらわせた。格闘技の技を素直にくらった勇汰は走るスピードが落ちてフラフラだ。凛は勇汰の手をとってはしる。



「おま……凛、手加減しろよ……っ」

「鳩尾じゃないだけありがたく思うべきだね」

「うえっ……」

「勇汰、前世のときにも我はあんたに説教したよ。一人で溜め込むなってね! もう忘れた?」

「……昔のことだろ。そ、そりゃあ忘れたわけじゃないけどさ……っ。お、覚えてるけど」

「二人に何かあったらどうするの! 林王も危ないけれど、姫小松だって危ない! 姫小松は脆くて崩れやすいから、放っておいたらどうなるか……」



凛は姫小松を責めることはなかった。それは凛だけではなく、ここにいる全員が同じだ。
前世で、あんな物語の終結を迎えた。魔王から救えなかった大切な命。無念で、悔しく、屈辱的で、息ができなくなるほど悔しい彼女の死を勇汰たちは現世でも忘れていない。忘れることはできない。

お姫様は自由になりたかった。生まれたときから息苦しい不自由な生活を強いられ、スケジュール通りに生活をしなければならなかった。自我が消えてなくなってしまいそうだった。魔王に拐われた時も自由が無く。彼女は足掻くことも泣いて叫ぶことも助けを求める暇さえ、涙を流す暇さえ無く、消えていったのだ。その悩みをか細い、いまにも消えてしまいそうな字で幼馴染みの勇汰に送っていた。美しい形をした文字でさえ、窮屈さを物語る。一度だけ勇者に届けられたお姫様からの手紙。

勇汰はそれを知っていて姫小松を責めることはできなかった。もし自分が姫小松と同じ立場なら同じことをする。最終的に全てを奪った魔王――その子孫。いくら別人であっても知ってしまった以上、大人しくはできない。



「勇汰、二人の居場所は!?」

「……要塞だ。俺たちが旅に出て、お姫様を連れた魔王が転々とする最初に拠点にした場所だ」