A light-blue season
「ええー、姫小松が休みぃ?」
「風邪でもひいたんじゃねえの? 普段の行い……つか、言葉が友達とは思えないくらい容赦ねえし。自業自得だろ。ま、まあ、幼馴染みだからお見舞いに行ってやってもいいけどな!」
「勇汰、ドライだね……」
「……別に姫小松が休んだくらい慌てることじゃねえって、凛」
「やっぱ前世が勇者だと落ち着いてるのかねー」
だらん、とだらしなく朝の教室で勇汰と凛は眠そうにしていた。ふわりと欠伸をしてまだ人が少ない教室から朝日のある窓の外に目線をうつした。もうそろそろ気温がグッと上がる夏だ。春の終盤だと桜が散った骨だけの木が物語っていた。 のんびりと朝をすごし、まだ静かな学校の中に走る音が響いた。足音の一つ一つが重く、うるさい。足音は勇汰と凛がいる教室が近くなると速度を緩めてドアをあけた。勇汰と凛だけではなく、教室にいた他の子も驚いている。
「朝からうるさいよー、朝比奈。もっと静かに……」
「姫小松と林王が休みだ!」
「ああ、ちょうど姫小松が休みだって話をしてたぜ。つか林王も休みなのか。珍しいな、二人も揃うなんてさ」
「ちっがう! あたしが言いたいのは二人が休みだってことじゃなく、連絡がつかないんだよ! ああ、駈け落ちしたんじゃないかって思うと……!」
「なんで二人が駈け落ちしたって考えにいたったのか是非知りたいね」
「聞いてよ勇汰。凛が最近冷たいんだ。チビかわいいからって調子に乗らないで欲しいよな」
「朝比奈、本人の前で愚痴を言わないで欲しいね」
「冗談だよ凛! 愛してる!」
「く、来るな! 胸揉もうとするなああああっ!」
凛が格闘技の技を見事にきめ、朝比奈は床の上でのびた。勇汰もこの光景に慣れて、とくに気にした様子も見せない。 朝のなんとでもない教室に、慌てた様子の五十嵐が現れた。ドアを左手でつかんで、頭から汗を流している。肩が、体が上下に動き、顔も紅潮していた。もうすぐで暑い季節になるが、歩いているだけで滝のような汗をかくはずがない。いつもは五十嵐を茶化す三人も今回は心配をした。
「どうしたんだよ、五十嵐! そんなに汗をかいて……、仕方ないからタオルを貸し――」
「五十嵐、タオル貸してあげるから拭きな! 一体どうしたの? そんなに急いだ様子で……」
凛は学生鞄の中からいつも同好会のときに使っているタオルを掴むと、五十嵐の胸に押し付けた。五十嵐はお礼をいいながら汗を拭く。勇汰が先を越されて落ち込んでいるところを、朝比奈がフォローした。
「なあ、聞いてよ三人とも。……これ、さっき川に落ちてたんだ。正確には河辺なんだけど、見覚えがあると思って拾ったら……」
ポケットから五十嵐が取り出したのは、水色の、林王の携帯電話だった。水に濡れてタッチパネルの上でいくら指を滑らせても、起動しない。
「これ、林王の……なんで……?」
「どうして河辺なんかに落ちてたんだろう。林王の落とし物か?」
「……まさか……」
「んだよ、勇汰。心当たりでもあるの?」
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