It is changeful.

 


5月末の出来事だった。この日、勇汰と朝比奈は学校でちょっとした悪さをしたため職員室に呼び出しをされていた。
授業中に放送室で遊んでいたのだった。マイクが入っていると気付かず器具で遊んだりトランプをしたり。



「あの二人は阿呆だと思うんだよね」



凛のもっともな意見に姫小松は賛成した。
二人の説教が終わるまで姫小松、林王、凛、五十嵐は教室で二人を待つことになった。先に帰っても良かったのだが外の雲行きがあやしく、傘を必ず所持していない勇汰と朝比奈が心配だということで二人の説教が終わるのをまつことにした。



「それにしても姫小松が二人を待とうだなんて珍しいねー」

「凛は僕をなんだと思ってるの?」

「姫小松の優しさってなんか怖いよね。なにかしっぺ返しがあるみたいで」

「ああ、こんなところに鋏が……」

「冗談だけどね! 長年の付き合いで姫小松が優しいってちゃんと気付いてるしね! ね、五十嵐!」



凛はあわてて五十嵐に助け船を求めたが五十嵐はそれに気づくことはなく。五十嵐の隣で姫小松と凛を眺めていた林王も五十嵐が話し掛けられた理由に気が付かず。二人は同時に小さく首を傾げた。凛はなにか技の名前を叫びながら椅子にチョップ。椅子は犠牲になった。



「この天然どもめ!」

「じゃあ凛。僕と二人で楽しいことをしようよ」

「色気を感じそうな台詞なのに、姫小松が言うと恐怖しかないね!」



凛は超人的な動きで林王の後ろへまわると「いっけえ、五十嵐! 君に決めた!」と姫小松を指しながら言うも、五十嵐はしばらくきょとんとした。タイミングをずらして凛が言った台詞の元ネタを言い当てると、凛は「天然イケメン撲滅同好会ないかな……」と窓の外を眺めた。
姫小松は凛を後ろに隠す林王を見た。その目には幼馴染みを見るときとまったく違った色が染まっていた。



「林王、うしろのチビちょうだい」

「姫小松くん、凛ちゃんおびえちゃってるよ?」

「違うよ。震えてるのはおびえてるからじゃない。武者震いだよ」

「あ、そっか」

「納得しないでよ天然2号!!」



凛は「ここには敵しかいないのか!」と四つん這いになって頭を垂らし、絶望に浸った。
姫小松は林王を騙し、五十嵐は理由もわからないまま凛を慰める。

誰も姫小松が林王をみる目が完全に変わったことに気付かない5月末の出来事だ。