A boy is kind.

 


「あの」

「ああ、ごめんね。林王ちゃん。分からない話だったよね……」

「そ、そんなことは……!」

「ちょっと、イケメン。なに林王を口説こうとしてるの? 凛と一緒に前歯だけ折っちゃおうか」



林王を気にかけた五十嵐とその間に姫小松が割り込んだ。姫小松と五十嵐が会話するさなか、林王は何が言いたそうな口を、眉を下げながら閉じた。



「まあ、つまりさ、感覚だよな」



話を切り替えるように勇汰はパチンと手を叩く。そうそう、と朝比奈も腕の袖を捲りながら言う。



「なんか言葉にし難い感覚だよな、夢に前世の記憶を見るなんて。なにか思い出すような、頭を働かせるような気がするし、懐かしさもある」

「あー。その感覚、よくわかる。私だけかと思ってたけど勇汰と朝比奈もなんだ。なんか安心したよ」



ほっと息を吐き出し、凛は頬を緩めて笑顔になった。五十嵐も同意をその笑顔に表す。
姫小松は斜め下を見ながら呟くように言った。



「……僕は痛い記憶ばかりだよ。魔王に殴られて。憎い、だとか仕返しをしたいとか、そんな感情に呑み込まれちゃいそう。でも捕まるまでは毎日が楽しくてしかたがなかったな。ただの夢じゃ感じない。……きっと前世なんだろうね」



ただの夢では感じない現実味のあるリアルな感覚は今すぐにでも思い出せた。勇汰――勇者たちの冒険と、姫小松――お姫様の絶望はまるで昨日のことのように思い出すことができる。妙な夢として捉えてきたものが「前世の記憶」という言葉にどうしようもなく当てはまる。
歴史には残らなかった過去の記憶に姫小松は棟のなかだけで納得して頷いた。



「前世……そっか。みんな前世の記憶があるんだ。すごいね。大切にしないと! きっと神様が特別にくれたサプライズなんだから! 誰にもない宝物――」

「……林王……っ。でも僕の思い出した記憶は痛くて苦しくて……辛いことばかりだよ」

「姫小松くん。姫小松くんはどんな痛みも苦しみも絶望もわかる優しい人だよ。姫小松くんは私のであった人たちの中で一番優しいよ」



姫小松に花のような笑顔をみせる。林王に目が会わせられなくなって姫小松はすぐに目をそらした。
弁当のなかにあった残りのものを誤魔化すように口の中へ運ぶ。姫小松と林王の話が終わったと思い、朝比奈は林王に迫った。



「ねえねえ! 私は術者だったんだけどさ、何か誉めてよ! 姫小松みたいに!」

「うん、いいよ。朝比奈ちゃんは……」

「朝比奈、林王に近い。首の骨を踏み潰したくなった」

「うわわ、姫小松! そんなことしたら朝比奈は首が痛くて派手に動けないよ! でも私にとっては好都合かもね!」