Talk which is not known.

 


「……僕も、おなじ夢を繰り返して見ることはよくあるよ。でも前世とは限らないんじゃない?」

「姫小松、お前はお姫様だ」

「は?」



姫小松の弁当に入っていた赤いウィンナーを口のなかに放り投げながら勇汰は指をさした。姫小松は自分のウィンナーをとられてしまったことと、指をさされたことに対してよく思っていないようで勇汰を睨む。勇汰はそれを無視してその指を凛へ。



「凛は格闘家」

「んん?」

「五十嵐は僧侶」

「え、俺?」

「朝比奈は術者で、俺は勇者。そんなような夢、見てないか?」



姫小松はなにも言わなかった。
林王の白い手を見ながら弁当の中身を減らしていくだけ。なにも言わない姫小松のかわりに凛が勇汰にこたえた。



「……どうしてそれを……。私、誰かに言った記憶ないよ」

「凛のことなら私がなんでも知って」

「うるさいねえ、朝比奈! 私は真面目な話をしてるんだよ!」

「あいたたた……」

「今度やったら、最近覚えたプロレス技でも……」

「さようなら、朝比奈」

「こらこら! 私はまだ死んでないって!! くそう、五十嵐め。イケメンだからって……!」



紙パックの牛乳をストローで吸い上げる合間に五十嵐が言えば朝比奈はすぐに反応。凛は「ふん」と腕を組んであぐらをかいて座り、勇汰に話の続きを促した。



「当たりだろ?」

「私は勇汰が今言った立場でみんなが出てくる夢をよく見るよ。姫小松だけ唯一性格やら性別が違うんだけど、あの可愛いお姫様が姫小松だってのは感覚で分かるよ」

「ああ……、僕は自分がお姫様だなんて隠していたかったのに、凛ってば……。喋れないように前歯だけ折っちゃいたいな」

「そんなことしたら私、恥ずかしくてもう喋れないよ! ごめんね姫小松」

「まあ別にいいんだけど……、みんな知ってるみたいだし。朝比奈と勇汰の前世の話、聞きたいな。どうして前世だって思うの?」



姫小松は会話に参加せず聞いているだけの林王を気にしながら手首を擦った。擦っている最中にそれが無意識であることに気がつき、はっとして手を手首から離した。
それを林王が何気なくみていたということは知らない。



「歴史、知らないだろ。俺も、朝比奈も、お前も。みんな。過去の出来事をなにもしらない。国がそんなことをしないんだ。調べようと」

「……」

「いや、調べないんじゃなくて調べられない。だって、俺、まあ、つまりは勇者なんだが、俺たちはバットエンドを迎えたんだ。客観的にはハッピーエンドでも姫小松を魔王に殺されたことで」

「……っ」

「勇者は歴史にこのことを記さないようにした。だから歴史は残らない。これで前世を実際のものとして確証できないわけだが……」



勇汰はここまでいうと、朝比奈に助けを求めた。こそこそと二人で話し合いをしているところどころ「練習」「リハーサル」「暗記」「予定とは違う」などといっており、この話は二人で練習して台詞を覚えてきたことになる。
話自体の信憑性は林王以外の五人がみた「夢」が確実のものにしている。
凛は小さく「阿呆」と呟いた。