A flower and Fetters

 


(……嘘……)



心の中で姫小松は呟く。

姫小松たちはこれから1年を過ごす舞台、教室に足を踏み入れていた。
黒板に書かれた文字の通りに席に座った姫小松の隣にはすでに1人の女子生徒が座っていた。出席番号の順番に並べられた生徒たちのほとんどは互いに初対面。姫小松たち5人のように幼稚園からずっと同じ学校に通い、同じクラスになる確率はかなり低いだろう。勇汰たちは席を確認すると妙に静まっているクラスが居心地悪いと、いつもより少しだけ落ち着いた会話をしていた。
姫小松もあちらに混ざりたいと思うのだが、隣の少女が気になる。

姫小松の隣に座っていたのは、朝に姫小松が目を奪われた少女だ。



(同じクラスだったんだ、この子……)



姫小松は読書するふりをして少女を盗み見た。
真っ白な肌は不健康な色ではない。さらさらと時おり窓から侵入するそよ風に髪が踊り、長いまつげはまばたきをするたびに揺れる。ガラス玉よりも透き通った瞳、潤った唇。折れてしまいそうな細い手足。
彼女の容姿は見れば見るほど姫小松を吸い込んでいった。



「おはよう……?」

「あ……、おはよう」



視線に気付かれ、彼女は顔を姫小松に向けて静かに微笑んだ。姫小松は驚いて情けない少し裏返った声で返事した。
ドクンドクンと心臓は狂ったように姫小松の胸を叩きつけ、頭がぼやぁっとどこかに浮かんでしまいそうな浮遊感を覚える。

フラッシュバックのように、鉄格子の中から見る牢屋が姫小松の目に浮かんだ。重い鋼の枷を手足につけられて、締め付ける痛い感覚と、貫くような寒さ。ジャラジャラと無機質な音が耳に響く。
一瞬にしてそれらがすべて姫小松に伝わった。どこから伝わったか、なんて分からなかった。つい、自分の手首に枷がないか確認をしてしまうほど現実味のある感覚。

姫小松のフラッシュバックに気が付くはずもなく彼女は自己紹介をした。



「私は林王玲奈っていうの。これからよろしくね」

「うん、よろしく。……僕は姫小松夏蓮だよ。姫小松って呼ばれてるから林王さんもそう呼んで」

「わかった。姫小松くん、だね」



笑う林王は、花が咲くような印象を植え付ける笑顔を見せた。男ならどきっと一瞬でも心を奪われてしまう。……男でなくても、朝比奈なら手を出してしまうくらいだ。