The day not changing

 

姫小松の目を奪った少女は彼の視線に気が付くこともなく先を歩いて行ってしまった。

姫小松は彼女の姿が見えなくなっても反対側の歩道を眺めていて、目を離さなかった。



(……心臓がドクドクとしてうるさい……)



全身の血管が心臓の動きに合わせて高鳴り、気持ちが高潮して頭がどうにかなりそうだった。姫小松は無意識に自分の胸に手を当てて、桜吹雪の歩道を見つめ続ける。



「ちょっと五十嵐! 姫小松がアンタの話題に飽きてそっぽむいてるよ! 我が話題を振るから三人で話そうよ! まあ、本当は朝比奈が怖いんだけどね……」



前を歩いていた凛は五十嵐の隣に来ると前方の朝比奈を五十嵐の影から盗み見た。朝比奈は勇汰との会話の合間に一度だけ凛を見ると凛は「ひっ」と短い悲鳴をあげて五十嵐の後ろに隠れた。



「ま、まったく、朝比奈の女好きはどうにかならないのかな。女なのに女好きってどういうことなの。抱きついたと思ったら服に手を突っ込もうとするし、隣に座れば何気なく足を触るしね! セクハラだね、変態だね!」

「まあまあ落ち着いてよ、凛」

「くそう、イケメンに慰められた! 頭撫でられた! ってあれ? 姫小松、本当にどうかした? さっきからボーとして」



凛は五十嵐の反対側の隣にいる姫小松がなかなか会話に参加せず、隣の誰もいない歩道を見ているのを不思議に思った。
凛に呼び掛けられて姫小松ははっと我に返り、目を細くして「なんでもないよ」と微笑んだ。



「姫小松、もしかして新学期が不安なの?」

「そりゃいいよね、イケメンの五十嵐くんは新学期に不安なんてないからね。嫉妬で僕、五十嵐の顔を剥いじゃいそう」

「それとても生々しいね……。まあ我は朝比奈と別のクラスだといいね!」

「あれ? 姫小松と凛、知らないの? 入学式のときにもうクラス発表されてたよ。俺たちみんな同じクラスだから平気」

「そうなんだ。僕にとって悪いことなのか分から……」

「いやあああああああああ! 朝比奈と一緒だなんて中学生活と変わらないじゃん! いやああああああああああああああ!」

「ちょっと凛。僕が喋ってるのに遮らないでよ」



姫小松の頭の中はあの少女が占めていた。
まだ汚れが見当たらない鞄や制服から彼女も姫小松たちと同じ新入生であることがわかる。

学校の敷地内、教室の中に行くまで姫小松たちは今までと変わらない日常を歩む。