ずっと底で



シングとミルミの遺体はリャク様がいったん引き受けることになった。遺族に引き渡す前に数日だけもらって。
彼らの死を知ったジンとレイカはただただ悲しんだ。ルイトと三人で抱き合って泣いていたが、オレには終始その感情が理解出来なかった。



「ソラ、深く考えない方がいいわ」

「あんまり気にするなよ」



遠目から三人を眺めていたオレに話しかけたのはシャトナとレオだった。オレが仲間の死について深く考えると深青事件のように我を忘れて暴れてしまう恐れがあるため、こうやって毎回誰かがストッパーになる。
二人に連れられてオレはそのまま四階にある暗殺部の会議室に来た。一度も会議室らしく使った覚えはない。会議室の役割はすべてウノ様の書斎で済んでしまっている。
各会議室のなかで一番綺麗な部屋に三人だけ集まる。そこでシャトナはラカールとチトセがあの晩オレたちと別れてそのあとどうしたのか話した。



「ラカールとチトセ、組織を脱退するそうよ」

「できるの?」

「ウノ様が特別にはからってくださるそうだわ。でも、そのせいでカノン様との間に更なる亀裂が入るのも間違いないわね」

「組織の脱退は情報の流出を防ぐために常に俺たちが殺してきたけど、ラカールとチトセは特別処置だろ? 事実上、シングとミルミはカノン様の部下だからさ……」

「もともと、水面下でウノ様とカノン様は対立してるし、今回がきっかけで爆発すると?」

「実際にカノン様にとってウノ様は目の上のたんこぶよ。いつでも正当な殺す理由を考えてるはず。内部抗争も視野にいれないといけないわね」

「まあ、その話はナイトも交えてあとにしよう。今日はラカールとチトセがいる。同胞に挨拶をしてこよう」

「このことはくれぐれも……」

「わかってる。言わないよ」



シャトナの垂れ下がる頭をレオが撫でた。ついでにオレも撫でておく。いつま鬱陶しいくらいに絡んでくるシャトナがこの調子だとなんだか調子が狂ってしまう。

エレベーターで上層階を目指している最中、オレはあの晩のことをずっと思い返していた。


あの晩、シングはチトセによって死んだ。その直後、ルイトはオレが今まで見たこともない眼をしてエマを睨んだ。あの眼をオレは知っている。 復習者と同じ眼をしていた。ルイトの銃撃をエマはミルミの身体から引きずり出した血で全て防いだ。このあと信じられないことが起きた。エマがオレたちの目の前で消えたのだ。ちょうど、ラカールが異能を使おうとする直前だ。ラカールの異能は時間の停止。それを使われればエマが死ぬはずだったのだが、彼女は見事に消えてしまった。
聞き覚えのある音を耳に残して、どこかに。
あれは確かに異能者がやったのだろう。そうでなければあんなことは起きない。

空間系の異能であることは間違いない。驚くべきことに、このことを思い出すたびになぜかミントを思い出すのだ。
彼女は行方不明たが、死んでいる可能性が十分高いのだ。ミントが犯人だとはありえない。それに、よりにもよって魔女側だとは……。