腐りきった裏側



嫌な音だ。バキ、ともゴリ、とも違う。なにか固い物体をすり潰したような音だ。悲鳴をあげることすら忘れて、目玉がポロリとこぼれそうなほど見開いたハリー。顔中には滝のような汗が流れ出ている。全身の熱が上がったのだろう。呼吸が荒々しくなり、合間に声が漏れている。そんなハリーのすり潰されたような声をだす口をワールが塞いだ。剣がライターを持っている方の手の甲を刺してしまう。オレの銃弾が入った足と刺された手から血がどっと流れ出ている。



「ナイスですよ、ソラさん」



シドレは清楚で涼しそうな微笑をこちらに向けてくれた。だが、彼らのやっていることは無残。冷酷なことを淡々と行った。そういえばツバサもこんなことを笑顔でオレにしてくれたことがある。諜報部とはそういったものなのだろうか。血生臭いにおいがあたりを漂っている。
オレが知らないだけで、リカも、サクラもこんな冷酷なことをするのだろうか。ミントはしていたのだろうか。ルイトはすでに手を染めているのだろうか。

確実に対象を殺すことを生業としているオレたち暗殺部とはわけが違う。諜報部は対象を殺さず捕え、拷問をし、生かすも殺さず情報を聞き出している。情報を流した対象は楽に殺され、臓器は売られるという噂をシャトナから聞いたことはある。信じてはいなかったが、こうして目の当たりにすると否定はできない。



「ハリー、どうやって本部に持ち込むの?」



オレの口から出たのはそんな質問だった。
きっと冷めた目をしていることだろう。



「気絶させましょうか。このままだと耳障りですので」

「俺、睡眠薬持ってきてねーぞ」



ワールはそういいながら、拳でハリーの腹を打ち付ける。ハリーは苦しそうな声とともに目を閉ざした。



「もしかしてソラさん、彼に同情しますか?」

「まさか。なんでそんなこと聞くの?」

「記憶を一度失われているので、こういうことをしたら同情をするのかと」

「記憶は戻ってる。仮にもこっち側の人間だよ。これすら温いんじゃない? ツバサなら四肢をもぎとって旅行用バッグに胴体を詰めそうなものだけど。手足くらいで人間は死なないんだから」

「いえ、……ツバサさんなら気絶だけさせてお持ち帰りします。あとでゆっくり楽しむために」



少し、シドレは遠い目をした。声は優しげになって。血生臭いままの空気を吸って、オレは「へえ」とだけ返事をした。諜報部はここまでするが、研究部はもっと悪逆非道なことをしそうだ。彼らは研究に犠牲を問わない。
左腕にドクン、ドクンと血液が心臓から流し込まれるのを感じながら世の中、やっぱり腐ってるなあ、と呟いた。