血



ちょうどシングたち四人が噴水広場に到着したとき、エマが現れた。大量の血を腕に巻き付けている。それをみたラカールは息をのみ、シングは目を細くした。



「今日はシングを殺せって言われてるからこっちに来たんだけどなんで四人もいるの。二人だけを相手にする予定だったんだけど」

「心配ない。ラカールとチトセには手を出させないさ。返り討ちにしてやろう。貴様の手で死ぬつもりはないからな」



シングがラカールとチトセに向けて頷く。ラカールは小さく、チトセは信じて頷いた。



「死ぬなよ」



そう言ってラカールの肩を抱き、噴水の反対側まで下がった。シングはミルミに少しだけ話すとエマを睨む。ナイフを手のひらにあてがって一本の線を引いた。ボタリと血が落ちる。何もしていないミルミにも契約者として主人のシングと同じ傷口ができたが、回復能力でシングより血の出血量は少なかった。



「すまない、ミルミ」

「今更ですよ。気にしないでください。心臓を突き刺したなら怒りますよ」

「怒られないように最善の努力をしよう。ミルミは怒ると怖いからな」



ジャラリとミルミの袖から鎖がのびた。地面にジャラジャラと音をたてて落ちる鎖。それが止まったのを合図にシングはナイフを投げた。エマは軽々と血を使って弾き返したが、そのナイフはさきほどシングの手のひらを切ったもの。その細い血が糸のようにエマに絡み付いた。同じ異能を使うため、エマは絡み付いた血を操ろうとしたが、できなかった。



「な、なにこれ!?」

「いまは手を出していなくてもさきほどチトセから補助術を受けた。異属性だ。これでは操れないだろう?」

「アンタが受けたってことはミルミにもその術が掛かってるってことか。うわ、最悪」



エマは吐き捨てるように言うと血を鋭い剣に形状を変えて硬化させ、シングとミルミを狙い飛ばした。シングは瞬間移動の異能で余裕に回避。ミルミは鎖で打ち払い、砕けた血を操ってエマに飛ばし返した。エマが逃げ切れないようにシングはエマを押さえつけた。血は迫る。エマはまだ口内を咬み千切って自分の血を口から吐き出した。その血でミルミから打ち返された血を受け止める。
血を操る、というだけの一点ならエマのほうが実力は上だ。少量の血で見合わない大きさの血を受け止めたその様を見て、シングは驚く。

エマがシングを睨み、シングは何をされるのか分からなくて一度引くことにした。



「ミルミ、怪我はないか?」

「平気です。しかしエマをどうやって殺しますか?」

「俺たちのただ血を操るだけの力ではエマに劣る。『血の契約』らしい戦いを見せよう」

「わかりました」