手足の一本や二本くらい




素早く銃を一丁握り、炎の先を撃つ。炎が邪魔をしてハリーの姿ははっきりと見えない。いくら良眼能力とはいえ透視能力ではないのだから当たり前なのだが。ただの熱に遮られていると思うと見えそうで見えないのだから悔しい。



「アイ、魔女はみえますか?」

『半径五キロ以内を洗いざらいするなら時間がかかる』

「……っそうですか、わかりました。ソラさん、これは戦うのではありません。撤退戦です。いいですか?」

「了解」



仕事をするときの返事と同じ音程で言う。ワールは「手伝う」と剣を抜いた。
炎が消えたとき、見えたハリーはすでにライターを指にかけていた。また炎が迫る。しかしシドレの重力操作が地面を捲れ上がらせ、即席で壁を作り上げた。



『ルイトがそっちへ向かっている。エマはシングたちが引き受けるらしい。人数ではこちらが勝るが、油断はするなよ』

「ハリーさんは対多数に長けていると見受けます。二人とも、彼を殺さないでください。捉えて拷問します。……彼にはこちらも聞きたいことがありますからね」

「わかった」

「了解」

「私はアイと連絡を取りながら支援をしています。手足の一本や二本は構いません」



さらりと酷いことを言ってくれる。シドレが地面を戻した途端、ワールはすでに走り出していた。炎が止んで目の前にワールが居たものだからハリーは「げぇっ!?」と目を丸くした。ライターを使わず、パチンと自分とワールの間に火花を散らすと小さな爆発を起こした。彼らは吹き飛ぶ。ワールとハリーはしっかり受け身をとった。瞬時のことだったがオレにはスローモーションに、はっきりと見えた。



「バーカ」

「ちょ、待、うわあ!?」



ハリーは悲鳴をあげながら銃撃から必死に逃げる。右手で撃ち続けながらオレは左手を動かした。別のガンホルダーからまた拳銃が取り出される。両手を拳銃をもってハリーを狙う。地面を盛り上がらせてシドレがサポートした。



「ぐっ」



当たった。
足に一つ、弾が埋め込まれてバランスを崩した。止まったハリーまた銃口を向けた。
ハリーはライターを鳴らした。

いくら撃っても当たらない。暑くて頬に汗がつたった。着弾が見えない。一体ハリーは何を……。あれ、なんで暑いの? いまは冬であるはず。



「ソラ、銃弾が熱で溶かされてる!」

「は、はあ!? 溶かすって、どこまで温度を上げてんの……っ」

「早く決着をつけましょう。熱で体力を奪われてしまいます」



支援、という言葉を撤回する言葉と行動をとった。シドレは一点に集中させてハリーの足首の骨を砕ききってしまった。