魔女不在



『魔女が干渉魔術でも使ったんだろうな。エマはソラを追いかけてきているルイトと四人の契約者を襲撃しに行った』

「契約者とはシングさんとミルミさん、ラカールさんとチトセさんですね。私たちが追っているとばれてしまえば、その時点で魔女を発見するのは困難でしょう。死属性の魔術師を追うのは非常に困難です。戻った方がいいでしょう」

「ちょっと待ってよ、本気で言ってるの?」

「ソラさんを狙うのなら必ずまた遭います。必ず。今でなくてもいいでしょう」

『それに、現時点で魔女の姿は確認できていない。ハリーとエマの二人だけがこの街に来ている可能性だってある。熱くなるなソラ。冷静に考えろ』

「……っ」

『ソラ』



アイからの連絡が聞こえる。誰も携帯電話の受話器を耳に当てていないせいでオレとシドレとワールにもよく聞こえていた。走っていた足を緩める。こんなところで焦っていても仕方がないのかもしれない、と冷静に考える反面、フツフツと熱くなる体温に殺気が隠しきれていなかった。
どうしても魔女を殺したくて仕方がないのだ。



「わかってるよ……。頭では理解しているんだけど、オレはどうしても……」

「仕事は冷静なのに魔女のこととブルネー島のことになるとソラさんは熱くなりますね」

「ごめん」

「いえ、それほど熱中できるものがあるということですよ。それがどこへ向いていようが。私たちはもう何も熱中できることがありませんからね。ツバサさんがいなくなって、最後のそれが切れてしまいました」



上品に笑うシドレには影があった。目を逸らすワールと、無言になってしまうアイ。

彼らもボスに対する忠誠と想いは軽くはないのだ。オレだってウノ様がいなくなったらどうなるかわからない。今、諜報部はツバサというボスが不在の状態。書類上はリカがボスなのだが、実際は拒否している。集会にもあまり参加していないらしい。シドレたちの過去は知らないが、彼らにとってツバサというのはとても大きな存在だったのだろう。



「!」

『三人とも、注意しろ。ハリーが動いた』

「ええ、今私も感じたところです。魔女の魔術でしょうか」

「近くで魔術を使った感じはなかった。超遠距離魔術だよ。あいつが使える超遠距離魔術の距離は最大1キロから5キロが限界。やっぱり近くにいなかったのかな」

「へえ、ソラってそういうのもわかるんだ」

「勘みたいなものだよ。記憶がもどってからこういうのがわかるようになった」

「助かる。シドレ、ソラを連れて逃げろ。俺は足止めをする。ソラをシングの家まで頼んだぞ」



わかりました、とシドレはオレの手をつかもうとしたが、空をきった。シドレの手から逃げたオレの手は抜刀しようとしていたワールの手をつかんだ。「オレも残る」。そう言おうとした瞬間、ずっと遠くの背後で炎が爆発した。ハリーが来るのが早すぎる。