おいかけっこ



グン、と重低音が鳴り響いた。ハリーが地面に膝と手をつく。カラカラとライターが滑った。



「シドレ、ありがとう。アイが協力してくれるって。この街の東側にエマがいるらしいよ」

「わかりました。行きましょう」

「え」

「手伝いますよ。ね、ワール」

「まあな」

「……ありがとう」



シドレの重力操作で、地面に足が食い込んでしまうほど重力をかけられたハリーは動くことが困難となった。ハリーに重力をかけた状態でシドレとワールはエマを追った。それのあとにオレは続く。



「っちくしょー……。うわあ、なんか悔しいなあ。……ごめんなさい、マレ」



苦しそうに吐き出されたハリーの言葉にオレは息の根が止まりそうになった。マレとはオレの姉ちゃんの名前だ。なぜハリーが知っている。しかし次の瞬間には建物の角でハリーの姿は見えなくなってしまう。



「……マレ」

「なあソラ、寒くないか? そんな薄い格好して」

「走ってて体があたたかくなってるから平気」

「上着でも着とけよ。一応女なんだし」

「この程度で体調を崩すほど柔じゃないよ。それに上着ってワールのでしょ? サイズ合わないし」

「悪かったな、俺のほうが小さくて!」



ふん、と拗ねてワールは顔を剃らした。シドレは「小さいワール」と呟いていた。








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ソラのコートを抱えてルイトはイヤホンに手を添えた。鋭い目付きは怒りでいつもより角度が上がる。苛々と怒るルイトの後ろで走っているシングは苦笑を浮かべてミルミに「ルイトがいつもより怖いな」と語りかけていた。



「シング、俺とお姫様はずっと狙ってるからな。お前が抵抗しても」

「……揺るがないんだな」

「お前とミルミのためなんだ」

「わかってはいるが、納得はできないな」

「"呪い"でシングはシングでなくなってしまう。どちらにせよ、シングは……」

「……」



チトセは区切って顔を反らした。もう言いたくない、と。その言葉の先を知るシングは月を仰いだ。はあ、と息を吐くと白い気体が月を隠した。青白い美しい月だ。真っ赤な瞳が月を反射した。



「やっぱり、"呪い"から逃げることはできないのだな」



小さく、小さく声を吐き出した。瞳の赤が零れそうになるほど悲し気でせなつないような表情を浮かべながら。
そうして青白い手をミルミの頭にのせた。つう、と必死に手繰り寄せるように彼女の手を握った。強く、強く。