追跡劇




ああ、どうしよう。どうしよう。金持ちの窓ガラスっていくらするんだろう。何十万とするのだろうか。特注の窓ガラスだとかでオレの月給分だったらどうしよう。今月はまだ大丈夫だけど来月は食費を抑えないといけない。とっさのことで、つい、やってしまった。つい窓ガラスを割ってしまった。

三階のオレが飛び降りた窓を見上げてため息。近くの木に飛び移って降りたのはいいとしても、これでは脱走をはかったようだ。
いや、今は後処理だとか客観的な現状はどうでもいい。街へ逃げる。あいつを追い掛けねば。
エマ・サメントを。


オレがラカールとチトセを目撃して少し経った頃だ。もういないだろう、と窓から外を見ればそこにエマが居たのだ。しかも目が合ってしまった。エマは「げ、やばっ」と口を動かしたあとすぐに回れ右をして街に向かって走り出して行った。
エマは魔女の仲間だ。オレはとっさにエマを追い掛けるため、窓ガラスを蹴り破って近くの木へ飛び移り、まるで落ちるように降りた。外の凍えるような空気にも構わず彼女を追う。
あのとき窓ガラスを蹴り破らず、開ければ良かったのだが……冷静を失っていた。



「ッチ、弾が少ない」



戦っても長くは続かないだろう。何十メートルも先にエマの姿を確認しながらオレは拳銃の調子をみた。不意打ちができれば数に問題はないが、きっと不可能だ。
オレとしての最善は、戦わずエマに撒いたと思い込ませる。オレはエマの追跡を続行して彼らの居場所を突き止めよう。もしかしたら魔女がいるかもしれない。彼らは場所を転々と変える。しかし急いではだめだ。準備をしてから仕掛けたほうがいい。それに一人で突っ込むとルイトが怒るし……ね。

すぐにオレは隠密行動に移った。この「眼」でエマが見えればそれでいい。近くに電波塔があるからあれに昇ってしまおう。間に物さえなければ見える。



「あ、ソラだ! こんばんはー」

「は? 悪いけど今は忙しいから後に――」



カチッ。

オレが振り返った途端、目の前で炎が発生した。









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高い「ガチャン」という割れた音にルイトは目を覚ました。とっさに空のベッドを見て舌打ちをした。急いで外へ出る支度をして部屋を出た。カーテンがヒラヒラと揺れている窓の前に立てば、その窓が割れているなど一目瞭然。
ジャリ、とガラスの破片を靴が踏んだ。



「ルイト、……これは」

「どうしましたか?」



すぐに後ろからシングとミルミの声がする。振り向けばたしかにその二人と、ラカールとチトセがいた。